2010-06-15 Tue      旅のスタイル(1)
 
 旅に王道がないように決定的な旅のスタイルは存在しない。旅人の志向、年代によっていかようにも変化するのが旅のスタイルであり、旅を続けることでおのずと定まり、しかも変容しながら定着する。
 
 1980年代半ばから仕事がらみで香港に行く機会が激増した。そんな矢先、フライトクーポン(数枚〜十数枚綴りの薄い航空券と考えてください)を香港の航空会社で購入する方法を知った。それは起点を日本ではなく香港に設定し、香港→日本→香港の1年間有効のフライトクーポンで、日本→香港はオープン(搭乗日未定)。日本といっても大阪=東京往復は同一料金内におさまるので、じっさいは香港→大阪→東京→大阪→香港のフライトクーポンである。
 
 当時、大阪・東京間を頻繁に往き来していたこともあり、交通費が浮いたというか、無料だった。香港発券のクラスはF(ファーストクラス)、上記の行程で往復8万4千円ほど(1香港ドル20円として)。大阪=東京間往復(スーパーシート利用往復4万円)は無料で利用できるから、香港=大阪の単純往復運賃は、8万4千円−4万円=4万円4千円。(香港・日本のFクラス往復正規運賃は38万円=日本で発券する場合)
日本発券の格安航空券(エコノミー)が5万8千円の時代である。しかもノーマルチケットの特典である予約変更、他社便への裏書き、解約も可(解約手数料は当然無料)。フライトクーポン払い戻し手数料は100香港ドル(2千円)。この方法で6年間に約50回香港へ行った。
 
 ヨーロッパへも香港発券を利用。香港→大阪(+東京往復)Fクラスにヨーロッパ線を追加したフライトクーポンで、大阪→パリ→ニース→パリ→フランクフルト/(オープンジョー)/チューリッヒ→ミラノ→大阪や、大阪→ミュンヘン→プラハ→ウィーン→リスボン→ミュンヘン→大阪といった行程を、エールフランス、スイス航空、ルフトハンザ、アリタリア、オーストリア航空などを使い分け、何度もストップオーバー(途中降機)を繰り返し、大阪=ヨーロッパ往復Cクラス(ビジネスクラス)を運賃20万円ほど(日本発Cクラス普通運賃は60万円弱。上記行程は日本からのストップオーバー制限距離を超えるので追加料金を請求される)で16〜18日間旅した(1985〜1991)。
 
 香港発券のからくりをヨーロッパ線も含めて、小学生には理解できないだろうと思いつつ知人の娘(小学5年生)に説明したことがある。少女はにっこり笑い、「会長さん(私のことです)は手品師みたいだネ」といった。あのときのあの顔、彼女はぜんぶ理解したのだ。
 
 
 普通運賃(正規運賃)ではなく格安航空券を利用する場合でも、旅のはじめは出発便と乗り継ぎ便を選ぶことにある。
パリ、フランクフルトなどの欧州の都市が目的地なら選択の余地はないが、最初の目的地がエディンバラで、最終目的地はトゥールーズとか、往路はブリストル起点でフライトはオープンジョー(ブリストルで車をレンタルしてイングランドをドライブ)とし、復路はマンチェスターから帰国ということになれば、各空港から日本までの直行便は運航しておらず乗り継ぎは必須。乗り継ぎに要する時間は長くて2時間が限度、可能なかぎり短いほうがいい。単に時間の節約というだけでなく、目的地へ早く到着するから疲労も少なくてすむ。
 
 フライト予約を代理店に任せず、時刻表とにらめっこしながら自分でフライトスケジュールを立てる。乗り継ぎの利便性を考えて航空会社を選ぶ。これについては「旅の雑学ノート」の「欧州内の乗り継ぎ」(2002.4.11)に記した。欧州内を移動するときは早朝・深夜便は避ける。宿でぐっすり眠ることは旅行中の快適さを保つために欠かせない。朝食も夕食も悠々と食す。朝食時のお茶、コヒーはお代わりし、たっぷり時間をかける。午前8時前の起床、午前10時前のチェックアウトなどはもってのほか。
 
 格安航空券利用の場合は機材にもこだわる。かつてのボーイング747は長時間飛行には不向き。3−4−3の座席配列だと、両サイド(3席)の真ん中のシートは通路側のシートより窮屈で、トイレに立つとき通路側の旅客が起きていることを祈るのみ。テーブルに機内食トレイを置いたまま飲み過ぎて爆睡しているということもある。
その点、2−4−2の配列は助かる。特に夫婦で旅するなら、座席配列2−4−2の機材を運航している航空会社を選ばねばならない。お金をかけて得る快適さはあたりまえ。お金をかけず快適さを手に入れるのが旅の醍醐味である。私がツアーを避け、個人旅行にこだわる理由の一つはそういうことによる。理由はほかにもいっぱいある。続きは次回。
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