英国には世界遺産の城が数多くあって、久しぶりに訪英した1999年初夏、どの城を見学すればよいのか迷った。
そこで選んだのはウェールズのハーレフ城、コンウィ城、スコットランドのエディンバラ城など。
同年10月初旬、ハイランドのダノッター城を見学し、北海に置き去りにされた孤高の廃城のすがたに圧倒され、
その後数回にわたり再訪。そしてハーレフ城、コンウィ城の再訪も増える。
 
3城に共通なのはロケーション。ダノッター城は別格として、ハーレフ、コンウィの両城は海に面し、周囲に高い建物がない。
海に接し、360度の見晴らしがきくというロケーション、古色蒼然とした城のたたずまいは来る者を魅了せずにはおかない。
 
過去3回紹介したハーレフ城をふたたび取り上げるのはほかでもない、城に架かる橋が2015年に架けかえられたからだ。
 
ハーレフ城は1282−89年、エドワード1世が当時の金額8190ポンドをかけて建造したという。
エドワード1世が猛ダッシュをかけて城郭建設に邁進したのは、イングランド軍がウェールズ王子軍と敵対するなか迅速に
北ウェールズに拠点を築きたかったからだ。ハーレフ城建設にあたり最高級の石工、大工、鍛冶屋などを雇ったにもかかわらず
費用が安かった理由については不明。どなたか興味のある方は調べてくださいい。
 
 
木造の橋は手すりが軽金属、踏み板はプラスティックもどきの合板に変わっていた。
木と合板とでは木のほうが寿命が長い。それに、13世紀建造の城に21世紀の橋がふさわしいだろうか。
 
入場料は6、5ポンド(2017年9月現在)。開城は月〜金 10:00−16:00 日 11:00ー16:00。
 
 
新しい橋の建設工事は2015年3月に完了。建設はウェールズ政府関連機構「ヘリテージ・ツーリズム・プロジェクト」を
通じて資金提供されたという。ヘリテージ・ツーリズム・プロジェクトって何? 無駄遣いの権化?
 
 
新しい橋はレストランとワンセットといえる。18年前も5年前も、このあたりには地元住民が行く小さなパブはあったけれど、
団体客が立ち寄るレストランはなかった。そもそも団体客はこのような辺鄙な場所へ来なかった。
 
それでもハーレフ城に来たいという個人客は少なからずいた。ハーレフ城のロケーションのすばらしさに惹かれて。
 
 
下から見れば単なる歩道橋にみえる。古城とのアンバランスが良いという変わり者、へそ曲がりはどこにもいるが、それはそれ、
現地に行って立体的な城と橋をみて、古い橋の写真と較べれば一目瞭然、古い橋に軍配があがる。
 
ところがこの新橋、以外にも観光客にウケがよく、2017年のRICS賞「観光とレジャー部門」のグランプリを獲得した。
(橋とビジターセンターのセットで受賞)
 
昔の橋
昔の橋
 
新しい橋に較べれば、古い橋のなんと魅力的なことか。
 
そんなことを言って昔を懐かしむ私は懐古主義のかたまり、歌舞伎でいうところの團菊じじいなのかもしれない。
 
昔の橋
昔の橋
 
木の橋が金属製になるとは思ってもみなかった。初めてハーレフ城にくる人は昔の橋を写真でしか見ることはできない。
過去2回、ハーレフ城へ行っていてよかった。
 
ハーレフはウェールズ語で美しい岩の意。木の橋がこういう姿で架かっているからハーレフ城は絵になると思う。
架けかえるなら、全部分を木にすればよかったろうに。
 
昔の橋
昔の橋
昔の橋
昔の橋
 
新しい橋をみて気分を損ねたこともあって、昔の橋の写真を連ねた。
 
昔の橋
昔の橋
 
新橋を上から見て、「ワシも古い橋のほうがいいと思う」と城の主も言っているような気がする。
5年前もいまも変わらないのは空と雲と城か。
 
 
この塔のうしろに見える海はすばらしい。ハーレフ城が旅人を魅了するのはロケーションなのだ。
 
 
ハーレフ城のうしろに広がるトレマドック湾の海はカーディガン湾へとつながり、さらに西でアイルランドとブリテン島を隔てる
セント・ジョーンズ海峡へ、北に向かえばアイリッシュ海へとつながってゆく。
 
エドワード1世像
エドワード1世像
 
 
 
 
 
 
スノードン登山鉄道
スノードン登山鉄道
 
ハーレフ城の新橋に気分を害しっぱなしでは来訪者に失礼。口直しというわけのものではないのですが、スノードン登山鉄道に乗って
スノードニア国立公園の一部を紹介しましょう。
 
 
犬が口を開けているように見える木
犬が口を開けているように見える木
 
ウェールズには妖精が住んでいると思う。1999年6月、初めて行ったときに感じたことは、再訪、再々訪したときも感じた。
 
 
グラスリン湖
グラスリン湖
 
薄曇りなのに魔法をかけられたような色。右下に点在する不心得者は岩になるかもしれない。ここはアーサ王伝説も残るウェールズ。
アーサー王の魔法使いマーリンが出没し、もしかしたら岩のいくつかは‥‥
 
すり鉢状の岩山に囲まれたグラスリン湖。こういう湖や池が随所にあって楽しい。
 
 
グラスリン湖
グラスリン湖
名もない小さな池
名もない小さな池
 
こういう場所にテントをはるのは、妖精があらわれる夜をひそかに待つ人にちがいない。精霊のざわめきを聞きたいのだ。
 
晴れていても雲の動きがあわただしい。山間部の天候は油断できない。本邦ならふつうに気象の変化と思うが、ウェールズでは
魔法使いのしわざかもしれないと思ってしまうのだ。そういう世界がここにある。
 
 
得体の知れない館
得体の知れない館
 
山影に広がるスノードニアの森と湖をながめ、ふと視線を下に落としたら、建物らしきものが目に飛び込んだ。
14,5世紀のマナーハウスにしては年代が新しそうだし、もうすこし時代の下った建物を利用したホテルかもしれない。
望遠レンズで見ると白い階段を下る人影が見えた。やはりホテルかと思いつつも気になった。
 
繁茂する樹木はオーク=ナラだ。スノードニアは広葉樹が多く、なかでもナラは家具、フローリング材として使われる。
木目がはっきりして柾目も美しい。木にうとい明治期の翻訳家がオークを樫と訳して以来、誤訳が一人歩きしている。
 
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