ダノッター城
ダノッター城
 
ダノッター城はおりからの強風に毅然と屹立し、孤独感をにじませていた。北海に置き去りにされた孤高の
廃城に私たちは圧倒された。
 
スコットランドで私たちがみたものは、豪華な写真集やガイドブックにはあまり掲載されない風景である。
いわばマイナー中のマイナーといえよう。観光客の心をとりこにする景色ではなく、人に自慢して紹介する
ようなものでもない。
なのになぜか私たちの心にいまなお居座りつづけ、思い出すたびに胸がいっぱいになるのだ。
みたものが深く心に刻まれ、思い出せばかならずそのときの風、空気の色が心中を去来し、出会った
人々があらわれる。
 
あれはグレン・ライオン(GLEN LION)であったか、霧雨が間断なく舞う細い道を、すれちがう車とてない
ドライブを長時間つづけていたら、遠方に幽かな赤い影が見えた。まもなく車がその影に近づくと、その人は
赤いウィンド・ブレーカーを身にまとい、マウンテンバイクをゆっくりこいでいた。そして、すれちがいざま、
それ以上できないような柔和な面持ちでほほえんだ。
 
一瞬の出来事だった。しかし私たちには充分すぎる時間だった。神さまがこの旅を守ってくださっている。
そう感じるには充分な時間であったように思う。
 
ダノッター城
ダノッター城
 
スコットランドの人々に共通していると思われるのは、意志強固、誇り、やさしさ。それらは風土が培ったのかもしれないが、
イングランドとの長い抗争の途上で培われた面もあるように思えてならない。
バグパイプの音色と響きはなぜああも哀調をおびているのだろう。威勢のよい曲でも、ずっと聴いているとわけもなく哀しく
なってしまうのだ。バグパイプに共鳴する何かが心のなかに在るのだろうか。
 
湖畔
湖畔
 
ハイランドをドライブしていると、こういう風景にしばしば出くわす。10月初旬、車内の外気気温計は摂氏3度
を示していたが、思いのほか寒くはなかった。寒いと感じなかったのは無風ゆえではない、車内の余熱が
身体に残っていたことと、湖のほとりに言いしれぬ何かを感じて‥子供の頃みた風景を懐かしんでいたように
思う‥呆然と立ちつくしていたから寒さが吹き飛んでしまったのだろう。
 
湖畔に車が二台とまっていた。この寒空、何をするというわけでもないが、いるものである、同好の士が。
何かしていなければ悪いことでもしているかのように自他共に思わせるものがここにはない。
日本ならこうはゆくまい。魚釣りか凧あげ、犬の散歩でもしていないと挙動不審とみなされる懼れもある。
 
Glen Shee
Glen Shee
 
バンコリーからピトロッホリーへ向かう途中、荒涼たる谷間がえんえんと続く。グレン・シー峡谷である。
しかし峡谷とはいっても、ご覧のようになだらかな草原もあり変化にとんでいる。このあたりには人も車もいない。
ヒツジさえもどこかに雲隠れしている。いるのは私たちだけ。
 
なのに殺伐としていない。人々は何もない風景のなかに暮らしているがゆえに温かさを保っているのかもしれない。
過剰なるものが温かさを妨げる都会には見出しえない何かがそこには存在した。
 
エディンバラ城1
エディンバラ城1
 
雨上がり、カールトン・ヒルから撮影したエディンバラ城。右の時計台のある建物はバルモラル・ホテル。
 
城は戦略上の拠点としてカッスル・ロックという堅固な岩山の上に造られた。エディンバラを制する者は
スコットランドを制するというほど難攻不落であったようだ。
が、14世紀初頭エドワード2世時代、ロバート・ブルース率いる30名の奇襲隊に城は奪還されている。

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