2021年7月4日      大富豪同心2
 
 2019年5月から7月にかけて放送された娯楽時代劇「大富豪同心」の2作目が2021年5月下旬に始まった。主な出演者は前回と同じ。新たに加わった俳優陣で傑作なのは松本幸四郎。
配役名が流れるラストシーン、レギュラー全員がそれなりに踊るのだが、幸四郎の顔と即興の振りが傑作。そこまでふざけても品と滑稽さを保てるのはさすが。
 
 脇をかためる村田雄浩、稲森いずみなどの共演者も楽しそうに踊っている。それが伝わるから毎週みる。ストーリーは単純で、そのぶん役者の細かい芝居がよく見える。2019年放送分も踊りが楽しみだったけれど、幸四郎が入ったことによっていっそう踊りが楽しくなった。
 
 本編は素朴、単純で娯楽時代劇の本道を行く。八巻卯之吉(中村隼人)は江戸随一の豪商(札差 竜雷太)の孫で町奉行所同心、剣はまったく使えず、知惠と周囲の協力で事件を解決してゆく。隼人抜擢はお手柄。
隼人の父二代目中村錦之助は中村信二郎時代、やわらかみ味のある独特の二枚目を得意とした。隼人の和事的芝居は父譲り、大叔父の血の配剤である殺陣は2で発揮される。深川芸者・稲森いずみの役が加味された。第5話(6月25日放送)では賊に襲われ、意外にも懐剣の使い手。
 
 隼人の相手役・美鈴(新川優愛)の颯爽とした女剣士の活躍もよく、美鈴はドンピシャの当たり役。娯楽時代劇はその昔、歌舞伎の女形出身長谷川一夫、中村錦之助(先代 隼人の大叔父)、大川橋蔵が「雪之丞変化」ほかで二役をやり、女形っぽい芝居でファンを湧かせた。
 
 新川優愛は往年の名優とは異なり色気も妖しさもなく、そこが演出の狙い。すっきりした役柄で好印象、掘り出しものである。女剣士を主役にした新作娯楽時代劇をつくるなら、ガラ、ニンともに合い、清々しさを自然に表現できる彼女はうってつけ。芝居、殺陣も数を重ねれば出来てくる。
 
 ことしの大河ドラマは3回みただけでみなくなった。うまいのは小林薫だけ。主役のなんたらの品のない目を見ていると疲れる。ほかの三文役者(満島真之介は別)を承知でみていたけれど、我慢の限界というやつ。脚本がつまらないし、「赤ひげ」とか「雲霧仁左衛門」のように毎回見せ場もなく、だらだら続く渋沢栄一なんてバカみたい。
 
 時代劇に元気がないとおもしろくない。みていて落ち込む時代劇はまっぴら御免、病気がさらにわるくなる。元気のないのは小生のような老いた病人だけでたくさん。
 
 子どものころ映画館で時代劇をみていた伴侶も小生も、稀少な娯楽作品のラストシーンの踊りで出演者が楽しそうにしているのをみて、特に幸四郎のふざけぶりをみて、「ようやる」と笑いながらみています。
 
 
           中村隼人と新川優愛  八巻卯之吉(隼人)は敵に剣を向けられると立ったまま気絶し、誰かが救いに入る。


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