2023年7月11日      大富豪同心3

 
 待望の「大富豪同心」続編「大富豪同心3」が6月23日はじまった。時代の流れなのか見るべき時代劇が衰退して久しく、コメディ活劇時代劇の衰退は目も当てられない。
そういう時代にあって昔日のファンの鑑賞に値するのが「大富豪同心」の主役は歌舞伎役者・中村隼人、当代中村錦之助の長男、当代中村時蔵は叔父、東映で活躍した萬屋錦之介は大叔父。萬屋系のやわらかみが持ち味だが、きりっとした役、ぼけ役もこなす。歌舞伎役者の強みは時代劇に必要な所作が板についていること。
 
 主人公が出入りしている深川の売れっ妓芸者に稲森いずみ。元々時代劇がうまい上に、回を重ねるごとにみがきがかかってきた。2021年6月放送「大富豪同心2」の第5話で、賊に襲われた彼女が懐剣の使い手であることがわかり、ただの芸者ではなく武家の出かもしれないと気づく。
江戸随一の豪商を祖父に持つ主人公は剣の心得がない。彼が危機に陥ったとき疾風(はやて)のごとく現われるのは剣道の道場主の娘で、女剣士の新川優愛。彼女の佇まいと芝居が輝いている。
 
 43分のドラマはテンポがよく、ムダもなくスムーズに展開する。コミカルシーンを担当するのは浪人役・村田雄浩、女形・浅香航大。二人の役柄は硬派軟派の対照だけではなく、硬派とみせてガクッとくだけるところに妙味があり、役者村田雄浩の面目躍如。
 
 浅香航大は以前、現代劇で谷原章介の男色相手をやったときもうまかった。今回は男色とはちがうが堂に入っている。渡世人役渡辺いっけいはひたすら同心の隼人に仕える一本気が隼人を引き立てる。
そのほかには安手のお笑い系みたいな助演者数名がわざとらしい演技でウケを狙うが、芸が拙く笑えない。コメディの基本は真面目さである。真面目であればあるほどおもしろい。
 
 中村隼人や稲森いずみはウケを狙うのでなく、何気ない所作とせりふで笑いを誘う。その上手下手で芝居は決まる。前回の2はゲストに萬田久子、3は前田美波里。両者とも大奥の年寄り役で将軍に対して若干の影響力を持つ。
芝居にみるべきものはなくても、半分おちゃらけのキャストということなのだろう。3で新登場する若村麻由美は着こなしがよく、せりふ回しも闊達。江戸っ子もいけるし、大阪弁を使う浪花女もいい。雰囲気が時代ものに合っている。
 
 前回からの助演者も健在。若剣士の新川優愛が若村麻由美に料理指導を受けるシーンや、中村隼人のスローな芝居は滑稽でおもしろい。
注目すべきは本編が終わって出演者名が並び、主な出演者の軽い踊りが入るシーン。隼人の所作はさすがに歌舞伎役者。新川美優の所作も艶やかさが上乗せされ、踊りのキレが冴えてきた。松本幸四郎のおふざけも絶好調。ホントに幸四郎は歌舞伎役者?と疑われそうなずっこけぶり。
 
 稲森いずみのようなオールマイティの役者だけでなく、新川優愛がコメディをこなせるようになったことは収穫。コミカル活劇時代劇「大富豪同心3」は笑いながら楽しめるドラマです。
 

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