2024年1月16日      あきない世傳 金と銀
 
 「みをつくし料理帖」の作者・高田郁(かおる)著「あきない世傳(せいでん)金と銀」がテレビドラマになって昨年12月より放送されている。松本穂香(ほのか)主演の映画「みをつくし料理帖」(2020)を以前WOWOWでみた。澪(みを)役・松本穂香の、素朴で熟れないトマトがひたむきに生き、名料理人として成長する姿に打たれた。
 
 「あきない世傳」の主人公・幸(さち)は第一話の子役を永瀬ゆずな、第二話から第八話までを小芝風花がやっている。永瀬ゆずながうまかったから小芝風花でだいじょうぶなのかと思ったが杞憂だった。
シーンが移る角々の心の持ちぐあい、表情の微妙な変化を自然に表現。学者の子だが貧しい農家暮し、聡明で謙虚、反応がよく、思いやりに富む明るい女性役を自分のものにしていた。
 
 幼い幸は兵庫県西宮・津門(つと)村の農家から大坂天満(てんま)の呉服店「五十鈴屋」に奉公する。幸の身分である女衆(おなごし)は下女の意で、通常そのままで一生を終えるのだが、五十鈴屋番頭・治兵衛(舘ひろし)が丁稚に「商売往来」(江戸期の商人の手引き書)を教えているのを隣室で聴き、文言を暗記する幸に注目。
女衆を雇いいれるさい数名の候補で唯一、生地の良否を見ぬいた幸を評価する。女衆の大ベテランお竹(いしのようこ)も幸に利発さを感じる。
 
 五十鈴屋の若い当代(長男)は廓通いに明け暮れ、祖母(高島礼子=お家さんと呼ばれている)は両親を失った当代に甘い。次男は商才に長け、三男は画の才能がある。番頭・治兵衛をやる舘ひろしが予想に反して芝居がうまく、次男役・加藤シゲアキが好演している。山本耕史主演の時代劇「剣樹抄」(2021)で片腕のない異形の剣豪を演じた。
 
 原作がおもしろく、脚本(山本むつみ)も堂に入り、主だった出演者の芝居もしっかりしており、早く続きをみたいと思える時代劇に仕立てられたのが喜ばしい。
 
 第四話目、ある呉服屋が反物(たんもの)を一反の半分を売ったり、毎月21日、誓文払い(店前現銀払い=バーゲンセール)を実施、通常の半値で反物を売り出した。五十鈴屋の次男も売り上げを伸ばすため実施。
当時の通貨は金、銀、銭で、バーゲンセールは成功し、豆板銀と呼ばれる粒状の銀があふれる。女性用の着物は生地一反が必要だが、子供用は半分(半反)あれば足りる。そういうニーズに応え、切り売りしたのである。
 
 長男は大店の娘と夫婦になるのだが、廓通いにうつつをぬかす夫に愛想づかしして実家にもどり離縁。後妻として白羽の矢が立った幸はいったん固辞するが、思い直して後妻となる。才気煥発というふうでなく、弱い立場の女性が気立てと才覚、思いやりを発揮し嫁ぎ先に尽くし、周りの者に気を遣い、すこしずつ成長してゆくすがたに魅了される。
 
 1月12日、第五話を終え、残り三話となってしまった。「あきない世傳 金と銀」は長編小説。どのあたりで区切りをつけるのかがみもの。ドラマが原作の最終章まで描くとすれば、シーズン3までは続きそうだ。視聴者の期待に応え、毎年シーズンを更新し、放送してもらいたい。

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