「雲霧仁左衛門」は2013年10月のシリーズ1から2023年シリーズ6(概ね各8話)まで放送された痛快時代劇である。役人や大名家の重臣と組み、あくどい商法で巨万の富を築く商人の蔵から千両箱をいただく盗賊の頭領役・仁左衛門に中井貴一。配下に内山理名、伊武雅刀、柄本佑、手塚とおる、山本亘、渡辺哲、黒沢あすか、遠藤久美子など。
場面々々、登場人物にふさわしい脚本。演出も傑出。毎回手を替え品を替えるカラクリ仕掛けの大道具がすばらしい。ファイナルシリーズ初回は雲霧一党の絵描きが蔵のおもてを大きな布に描き、盗賊捕縛に来た役人たちをあざむき、視聴者もだまされてしまう。見事な仕掛けというほかない。
時代劇は剣豪時代劇、人情時代劇、痛快時代劇の三つに分かれ、雲霧仁左衛門は痛快時代劇の傑作である。
痛快時代劇なので雲霧一党の盗みは成功するとして、どのような経緯でうまくいくのか。盗賊を取り締まるのはおなじみの火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)略して火盗改(かとうあらため)。
町奉行は文官で構成されるが、火盗改は武官が担った。刃をふるう賊徒に対してヘッピリ腰の町奉行の役人では話にならないからだ。火盗改の統領役に國村隼、与力役に村田雄浩。シリーズ最初のころの岡っ引き役に中西良太、下っ引き役にやべきょうすけ(ファイナルにも出演)。密偵役に京野ことみ。
雲霧一党のキャスティングも火盗改のスタッフも手を抜かず時代劇の名脇役をそろえた。各シリーズのゲスト出演者も渋い役者が登場。佐野史郎、伊吹吾郎、小野武彦、梶原善。ファイナル第2話は老中役の中村梅雀が、表情、せりふ回しにさすがと思える芝居をみせた。
三代つづいて名優は出ない、という通説があるのかどうか知らないが、中村翫右衛門(かんえもん)、中村梅之助、中村梅雀の祖父、父、子は名優だ。祖父・翫右衛門は四代目河原崎長十郎、五代目河原崎國太郎とともに前進座を起ちあげる(1931)。國太郎の子息は松山英太カ、松山政路。
雲霧仁左衛門役中井貴一の父は二枚目スター佐田啓二。池部良より8歳も若いのに37歳の若さで死去したのが惜しまれてならない。池部良が60代半ば〜後半にみせたステキな上司や父親を佐田啓二にもやってほしかった。池部良は時代劇に向いていなかったが、佐田啓二は現代時代両方をこなした。
中井貴一の頭領は元武士で、せりふは少なく、配下を統べる貫禄と大物の風格をなびかせ、ガラ、ニンともに雲霧仁左衛門にふさわしい。ドラマが始まったころはそうでもなかったのに、回が進むにつれそれらしくなっていった。
ファイナル第2話で目立ったのは札差・三国屋主人をやった観月ありさの好演だ。伊武雅刀がかつて雲霧一党の小頭で、奉行所の役人に追いつめられ自害する男(伊武雅刀)の兄で再登場。蔵前一の札差「大熊屋」という設定。
以前より役者の格が落ち、いい芝居をする新メンバーは伊武雅刀、近藤芳正ほか数名となってしまったが、それなりに痛快時代劇の一翼を担っている。が、中田クルミだけよくない。内山理名と比較して数段見劣りする。
中田クルミは口先でせりふを言い、表現力が乏しいので人物像があいまいなまま推移し、見せ場も伝わってこない。そういう芝居をくり返すと印象に残らず忘れられてしまう。
観月ありさの札差はいかにも苦労を重ねた大店の主人という雰囲気、目つきをそなえ、時代劇にほとんど出たことのない女優とは思えない芝居をしている。
ファイナル第3話の15年前の回想シーンは女優の真骨頂を示し、20代と思える娘になっていた。芝居はみる者をあざむかねばならない。押しの強い札差という役のハラを持ち、往時の観月ありさに見えないことで視聴者をあざむいた。
10年前の中堅女優が年を取り、役にそぐわなくなった昨今、若手が成長してこういう役ができるようになったのは時代劇ドラマにとって収穫。スケールの大きい痛快時代劇は「雲霧仁左衛門」が最後になったとしても、制作者の奮闘で局から予算をぶんどり、見応えのあるドラマをつくることを期して。
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