2025年1月28日      映画「忠臣蔵」 1958年

 
 2024年12月24日にテレビ放送された映画「忠臣蔵」(1958年大映)の録画を2025年1月21日にみた。映画やドラマでで大石内蔵助をやった役者は多い。
時代劇ファンだったので子どものころから東映の「忠臣蔵」や1964年の大河ドラマ「赤穂浪士」などでさまざまな大石内蔵助をみているが、大映の「忠臣蔵」をみておらず、大石役は長谷川一夫にかぎるという思いをあらたにした。
 
 64年の大河ドラマの大石も長谷川一夫だった。米沢上杉家の江戸家老・千坂兵部(3代目実川延若)が放った間者・林与一と同・淡島千景、吉良上野介の滝沢修以外の出演者は忘れてしまい、今回調べ直したら、次々に思い出した。
実在の千坂兵部の没年は1700年なので、松の廊下事件がおきた1701年に登場するはずはないが、大佛次郎作「赤穂浪士」では大石内蔵助に対抗する役を与えている。間者の堀田隼人(林与一)も淡島千景も実在しない。時代劇は架空の人物を鮮やかに、克明に描くことで臨場感が出る。
 
 実川延若は往年の歌舞伎ファンなら知らぬ人はいない名優。父親の2代目延若と較べて男ぶりは劣り、父親のように艶聞もないけれど、しばらく途絶えていた宙乗りを復活させ、先代市川猿之助(3代目)がスーパー歌舞伎を起ちあげるにあたって影響を及ぼした。
天井から吊されたワイヤ先端の鉤を身体にひっかけ舞台から3階席の上へ移動し、小さな扉へ消える。花道でワイヤを上下して手足をばたつかせ、客を沸かせる。延若の試みは一部の歌舞伎役者に取り入られ、早替りと共に舞台は歓声の渦。
 
 しかしバカ識者が宙乗りや瞬時の早替りをケレンと言い立てる。ケレンは「ウケ狙いの大げさな演出」の意。バカは識者だけでなはかった。大手新聞社の記者がオウム返しにケレンと書き連ねる。歌舞伎のカの字も知らない記者、歌舞伎のおもしろさを棚に上げ、屁理屈を言う評者。
 
 で、どうなったかというと、延若も猿之助もびくともしなかた。江戸時代以来、客が何に魅了されるか理解できない単細胞の意見は受け入れられようがない。
「勧進帳」と「助六」だけみて歌舞伎がわかったような顔をする単細胞。歌舞伎ファン全員が役者と宙乗りを支持し、識者や記者の意見はボイコットするか無視した。当然である。
 
 映画「忠臣蔵」に登場する俳優のなかで、長谷川一夫、2代目中村鴈治郎は元歌舞伎役者だ。
 
 ドラマ「赤穂浪士」は実川延若のほかに昭和中期に活躍した8代目坂東三津五郎(柳沢吉保役)、坂東蓑助(後の9代目三津五郎)、守田勘弥(玉三郎の養父 徳川綱吉役)、尾上梅幸(浅野内匠頭役)、17代目市村羽左衛門、尾上九カ衛門(6代目菊五郎の長男)、中村又五郎、坂東吉弥。
市村竹之丞(後の5代目中村富十郎)、尾上松緑(大河ドラマ「花の生涯」の主役井伊直弼 新井白石役)など錚々たる顔ぶれ。鞍馬天狗で有名な嵐寛壽郎も細川綱利役で登場。アラカンは長谷川一夫同様、初代中村鴈治郎の弟子で女形。
 
 アラカンも長谷川一夫も映画スターとして一世を風靡した名優なのだが、映画は泥芝居と呼ばれ、歌舞伎界から蔑視されていた。歌舞伎から映画に転出した役者は猛反対を押し切って映画界に身を投じたのである。
長谷川は1927年、歌舞伎から映画界に進出、まず松竹映画に行き、その後1937年、東宝に移籍した。それを新聞が松竹の恩を忘れた「忘恩の徒」と非難、煽られたチンピラ2人にナイフで顔を切られる。
 
 1947年、新東宝の設立に参画する。主な俳優はほかに大河内伝次郎、山田五十鈴、黒川弥太郎、高峰秀子、原節子など。大ヒット作「銭形平次」シリーズの撮影は1951年に始まった。
 
 映画「忠臣蔵」の大石で特にうまかったのは祇園「一力」で遊ぶ酔態。長谷川は体質的に酒を飲めない。傾城・浮橋太夫(木暮実千代)ほか数名の遊女と庭先で戯れたり、浮橋の膝枕で横になっていると刺客があらわれ、酔態のまま逃げ回るシーンが秀逸。
小生5才から7才まで自宅で宴会が毎夜おこなわれ、酔っ払いの生態をみてきた。彼らの酔態は下品。気品と酔態の両立は簡単ではない、長谷川一夫の真骨頂である。歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」七段目「一力の場」の大星由良助(大石内蔵助)も酔態をみせながら気品を保っている。
 
 映画「忠臣蔵」でいい芝居をみせたのは長谷川一夫のほかに淡島千景(大石の妻女りく)、京マチ子(間者)、二代目中村鴈治郎、志村喬。
 
 大石内蔵助はさまざまな俳優が演じてきた。東映では片岡知恵蔵(歌舞伎出身)、市川右太衛門(歌舞伎出身)、中村吉右衛門。里見浩太朗の大石は論外として、緒形拳(新国劇出身)、江守徹、18代目中村勘三郎など。
時代の移りかわりや贔屓の好みを考慮に入れて、大石役者はハラ(精神的指針)を表現する力、そして意思を隠す力をそなえ、しかも花がなければならない。そのすべてを兼ねそなえているのが長谷川一夫なのである。

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