「あきない世傳 金と銀」第二章もとうとう最終回になった。続きが楽しみになる連続ドラマは久しぶり、「あきない世傳」がおもしろいのは、原作、脚本、演出、役者の四拍子がそろい、出演者だれもが役のハラをつかんでいることだ。互いの思い、情の深さを感じる。
大坂天満の呉服屋「五鈴屋」に奉公に出て、商才と気立ての良さを認められ後妻となる主役・小芝風花、助演の舘ひろし、いしのようこ、加藤シゲアキ、八嶋智人、泉澤裕希、風間杜夫など、ベテラン、若手の別なく役者がよく、気合いが端役に伝わり、せりふの少ない端役も手を抜かず好演している。
第二章は帯に注目した五鈴屋の幸(小芝風花)が周助(泉澤裕紀)を京都に出向かせ、帯地の買い付けをおこなうところから活気を帯び、五鈴屋七代目を継ぐ決意を幸がせざるをえなくなり、待望の江戸店を開くところまでテンポよく進む。
江戸店は繁盛するが、開店翌年の2月になって売り上げは低迷。幸は以前、文楽の人形遣い・亀蔵(星田英利)が紙に書いてくれた歌舞伎役者(風間杜夫)をたずねる。
話をしていると若い弟子が来て、幸は会話からヒントを得、動きやすい稽古着を五鈴屋でつくろうと役者に提案し、快諾される。稽古着は表地が木綿、裏地が絹。ただの絹ではない、五鈴屋特製の浜羽二重なのだ。歌舞伎役者は、江戸っ子が好む粋は、表は地味でも見えないところを贅沢にするということだと幸に述べる。
歌舞伎三大狂言の「仮名手本忠臣蔵」、「義経千本桜」、「菅原伝授手習鑑」(すがわらでんじゅてならいかがみ)は人形浄瑠璃として演じられた。人形浄瑠璃から歌舞伎に取り入れられた狂言は多い。歌舞伎は敬意を表して、人形浄瑠璃の演目を「本行」(ほんぎょう)と呼ぶ。人形遣い亀蔵は恰好の紹介者なのである。
表地を木綿、裏地を羽二重にという試みは成功するが、ほかの呉服屋もまねして同様の稽古着をこしらえる。ところが、他店の羽二重は何度も動いているうちにすり切れ、五鈴屋の浜羽二重はすり切れず、しゃきっとしている。よいものを提供するという商人の心意気は江戸で評判となり、五鈴屋の名は広まっていく。
幸は反物のオリジナル文様を考案し、型紙で有名な伊勢・白子に奉公人を出向させる。型紙づくりを引き受けてくれたものの、なかなか型紙が届かず幸も奉公人もやきもきするが、数ヶ月たって型紙を飛脚が届けた。小さな鈴を生地いっぱいにあしらった独創的な模様。鈴の小紋。
型紙を反物に染め付ける職人は飛びきりの腕をもっていなければならない。幸いにも職人はいた。しかし頑として承諾しない。幸は一計を案じ職人もその気になる。
染め付けの進捗は以前テレビ番組でみたけれど、優れた時代劇ドラマのなかで進行する型染めシーンに目を奪われる。ノンフィクションの染め付け作家は未知の人だが、ドラマの職人は生き方も性格も知っている人。劇中、型染めの工程をカメラが追う。このシーンは原作の文字で想像してもしきれない映像の力。リアルな映像に魅了される。
小紋は江戸紫を中心に売れてゆく。五鈴屋の評判を耳にした当代きっての歌舞伎役者「中村富五郎」(片岡千之助)が五鈴屋にやって来る。いうまでもなく初代中村富十郎。中村座で初めて長唄舞踊「京鹿子娘道成寺」(きょうかのこむすめどうじょうじ)を踊り、江戸の歌舞伎ファンを唸らせた。
烏帽子をかぶり、艶やかな着物姿はステキ、「鐘に恨みは数々ござる」の長唄と三味線は名曲。ファッション雑誌のなかった時代、商家の娘は歌舞伎の衣裳から流行を先取りした。女形は動くファッション誌だった。
小生は五代目中村富十郎、四代目坂田藤十郎、七代目尾上菊五郎、十代目坂東三津五郎、五代目坂東玉三郎の「京鹿子娘道成寺」をみてきた。優劣云々より、華やかで流麗な衣裳、鞠つき、引き抜き、鐘入り、後ジテの変化など1時間以上に及ぶ長唄の大曲はみどころいっぱい。
女児、男を知らない娘、知った後すねる女、嫉妬する女を踊り分け、最後は鐘に上って蛇体となる。初演時、江戸っ子の喝采を浴びないほうがどうかしている。観客の大部分を占める商家の娘や後家が夢中になったのは、どこかの若旦那や自家の手代との色恋を娘道成寺の白拍子・花子に重ね合わせたからと思われる。
「あきない世傳」はそうした色艶にふれず、人の情け、商いの知惠と発想をわかりやすく、変化をつけて、爽やかに描いており、若年層も中高年も楽しめるドラマだ。
鈴模様の小紋で名声を得た五鈴屋だったが、江戸市中に「はしか」がはやり、反物の売れ行きはばったり止まってしまう。そこへ、若く貧しい母親数名が子どもの額に巻く「はしか」厄払いの鉢巻(紫は病気封じの色)を買いに来た。幸は鉢巻に必要な長さの紫色を一寸単位で切り売りする。
これが噂となり、はしかの収束後、五鈴屋は以前にも増して繁盛する。幸は農家出身の苦労人、庶民の気持ちがわかるのだ。このあたりの芝居がうまい小芝風花を主役に起用した制作者のお手柄。瓢箪から駒のワンカットも自然に演じる。
歌舞伎に見られる紫の病鉢巻は、「菅原伝授手習鑑」寺子屋の松王丸(ただしこれは仮病)、舞踊劇「保名」(やすな)の保名、「廓文章」の夕霧。鉢巻は顔の左側で結ぶのが病であるというサイン。原作者・高田郁が歌舞伎に精通していることをうかがわせるシーンが随所にちりばめられている。
ドラマは一難去ってまた一難。幸の片腕・周助(泉澤裕紀)が大坂から助っ人に来たものの、奉行所から上納金1500両を納付せよと通達があった。難局をどうやって切り抜けるか思い悩んだ幸は妙案を思いつく。泉澤裕紀の芝居は年々上達し、オファーの絶えるいとまもない。小芝風花の幸は生涯の当たり役になるだろう。
そこまでが「あきない世傳 金と銀」第二章。続きは第三章で。放送日は不明。五鈴屋五代目店主から江戸両替商となった惣次(加藤シゲアキ)がどう絡んでいき、新たな出演者の役回りはどうなるか。待ち遠しい。
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