柴田錬三原作の娯楽時代劇ドラマ「眠狂四郎」の放送日が決まった。3月24日午後10時(NHK)だ。同時に主な共演者も発表された。主演は長谷川博己。眠狂四郎といえば市川雷蔵、雷蔵といえば眠狂四郎と絶賛された時代劇は、1963年から69年に12作品製作され、大映の経営を支える。「眠」は「みん」ではなく「ねむり」と読む。
どれくらい人気があったかと言うと、小学生から高齢者まで男女の別なく映画館に行った。従来の剣豪と異なり、英傑でもなく、道を究めるのでもなく、酒と色を好む。そのあたりの描写は忘れても、狂四郎の円月殺法(えんげつさっぽう)だけははっきりおぼえている。
2000年代前半、義母、伴侶を伴い京都へ行っていた時期があり、円山公園の長楽館(喫茶店)で休憩し、屋外で次の予定地を話し合っていたら、義母が数年前に親戚の女性(当時70代前半)と雷蔵の話になり、その女性が円月殺法の動作をしたらしい。で、義母も刀なしで円月殺法をしてみせた。「円月殺法」と言葉を発しながら。
伴侶が3歳くらいのころ、家の前でオモチャの刀を振り回し、ひとりチャンバラをやっていたと義母は言い、写真もあった。
柴錬の連載小説「眠狂四郎無頼控」は週刊新潮に連載され、狂四郎が混血で二枚目、剣の達人、性格が冷血、ニヒルということでたちまち読者を席捲する。女を抱くエロティシズムの匂いも歓迎されたかもしれない。
装束は黒羽二重の着流し。歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」の五段目「山崎街道の場」の定九郎の黒羽二重と同じ。市川雷蔵は当初、歌舞伎役者・市川九團次の養子となるが、後に歌舞伎の名優・市川壽海の養子となり運が開けた。
壽海に雷蔵をとりもったのは武智鉄二である。武智鉄二はいわゆる「武智歌舞伎」を起ちあげ、後の坂田藤十郎(1931−2020)、中村富十郎(1929−2011)を育てる。彼らと同世代の雷蔵は映画界入りして人気と実力を併せもつ昭和の名優となった。
円月殺法は昭和の時代劇ファンなら知らぬ者はない。そして雷蔵の殺陣は歴史に残るうまさ。そうはいっても、展開がおおむね同じパターン。その点はしかたない。12作ぜんぶみた人は熱心なファンと思われる。
昭和時代劇(映画)でひとりの人物をくり返し演じてきたのは、19度(東映版)も映画化された旗本退屈男の市川右太衛門を筆頭に、17度も映画化された銭形平次の長谷川一夫、10度の若さま侍捕物帖と、8度の新吾十番勝負の大川橋蔵など、全員が元歌舞伎役者。
歌舞伎役者が映画に転出した理由については、当時、歌舞伎が斜陽化したということにもよるが、主たる理由は彼らが名跡の出ではないということによる。歌舞伎界は名跡の継承を優先する。名跡以外の役者には良い役がつかず、出世も見込めない。
雷蔵と同い年だった坂田藤十郎(中村扇雀)は1955年、映画界へ行き、1963年、歌舞伎に復帰。後に「近松座」を起ちあげ、下火の関西歌舞伎を支えつづけるが、彼の女性遍歴は語りぐさとなった。
舞台に立つ時間と、若い美女を口説く時間が同程度と噂され、特に祇園の芸妓に執着し、70歳を過ぎても10代の舞妓との現場を写真週刊誌に掲載される。
マヌケな記者が取材しても、隠すどころか平然として、「私が元気なことを証明してくださった」と坂田藤十郎は記者たちに礼を言い、国交大臣だった奥方の扇千景の発言も、「女性にもてない男はつまらない」と小気味よく、申し分なかった。
その会見をテレビでみたとき幕末の京都を思い出した。薩長土肥や関東の田舎侍が都に出てきて、勤王の志士とか新撰組を名乗り、無粋な行動を起こして洛中の嫌われもの、笑いものとなるが、当人は知らぬまま明治維新を迎える。
京都を知らないにもほどがあり、歌舞伎を知らないにもほどがある。きのうきょう名前が売れた芸能人と何代も名跡がつづく歌舞伎役者を同列に扱うメディア記者は田舎侍としかいいようがない。
市川雷蔵は1969年、最後の「眠狂四郎」を撮り終えた半年後、37歳で亡くなった。雷蔵の死の2年後、大映は倒産する。映画受賞作品より眠狂四郎のほうが役者としての雷蔵を際立たせている。以降、雷蔵に匹敵する時代劇俳優は出ていない。
そういう眠狂四郎を長谷川博己が演じる。これは比較の問題ではない、雷蔵とはちがう狂四郎を長谷川博己がどういうハラでやるのか、そこに注目したい。「麒麟がくる」の明智光秀以来、しばらく長谷川博己をみていない。
「麒麟がくる」のイントロ、伏し目の愁いをおびた表情がオレンジ色に照らされ一変し、謀反人の目となる光秀。最後は言いようのないはかない目になる。見事だった。狂四郎と光秀のかすかな共通点は過去の幽囚である。
共演者でおもしろそうなのは、狂四郎を狙う剣豪役・高橋光臣と狂四郎の右腕役・森永悠希。高橋光臣は連続時代劇「神谷玄次郎捕物控」の同心役でいいところをみせた。
森永悠希は大河ドラマ「花燃ゆ」の主役(井上真央)の弟役や、山本周五郎原作の時代劇「さぶ」のさぶ役で渋いところをみせているが、団時燻蜑堰u京都人の密かな愉しみ」の洛志社大学生・繁野役でコメディもやれるとわかった。長谷川博己と共に愉しませてもらえる時代劇となるよう期待しています。
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