あっち向いてほい

　「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵しています」、「人々の間にボランティア活動をはじめさまざまな助け合いの気持ちが育まれ、防災に対する意識と対応が高まってきたことに勇気づけられます」、「結婚以来皇后は、常に私と歩みを共にし」、「深い信頼のもと、伴侶と共に、これまでの旅を続けてきました」。

　天皇陛下平成最後のお誕生日のおことばです。「あっち向いてほい」のタイトルと正反対のおことばに胸がいっぱいになるのは、陛下の心のこもったお話に魂がゆさぶられるからかもしれません。

昭和に較べて平成は恵まれた時代であったと思う反面、心のすさむ時代であり、特に２１世紀に入ってから人心の荒廃が進み、隣人は敵とみなされるような気配が強くなりました。礼節を失って人間に残されるものは何なのでしょうか。

　情報はいつの世も価値があり、ＮＨＫほかのメディアは情報を征する者が勝利すると喧伝することに大わらわ。人類誕生までさかのぼって侃々諤々。スマートフォン命みたいな新新人類まで現れる一方、メディアの一部は礼節を失ってはならないと訴えています。礼節を必要としない野鳥でさえ正確な情報発信と受信を交わします。生きるために必要だから。

言行一致、ことばと行動がばらばらにならず、併存してゆく条件はただ一つ、トランプ状態を続けることです。世界の状況がいかように変化しても、大立て者はぜったいにぶれてはなりません。変化に合わせることは沽券に関わるのです。変化に合わせることを頑なに拒否し、言行が完全に一致するのは、頭のネジがはずれた人のほかにヒトラーのような人間でしょう。

　そういうなか、スポーツ界で平成も残り少なくなった今年、ふつうの人間と乖離する行為、言動がありました。官界とメディアのなれ合いが続いた結果、メディアに在籍する女性に対するセクハラも話題になりました。

あれくらいのことは想定内、女性が騒ぎすぎと思っている方たちも少なからずいて、セクハラ、パワハラは近年忌避されるようになったが、少し前ならたいして話題にならなかったと考える殿方も巷にいるようです。

　きょう１２月２３日は天皇陛下のお誕生日。そして女子フィギュア日本選手権最終日でした。バンクーバー冬季五輪銀メダリストの浅田真央選手は、「仮面舞踏会」（ハチャトゥリアン）、「ピアノ協奏曲第二番」（ラフマニノフ）を演技曲に使っていたころが出来ばえもよかったと思う私はその後、宮原知子（さとこ）を応援しています。

宮原知子選手は現在、表現力において世界第一人者であると思っています。紀平梨花に敗れたＮＨＫ杯２位、坂本花織、紀平に敗れた日本選手権３位は残念でなりません。宮原選手の悔しさはいかばかりと思います。が、あしたに向かって研鑽をつみ、挑戦するほかないのです。

　紀平選手はトリプルアクセル２回を成功させ、坂本選手はジャンプを含むフリー演技を危なげなくこなしています。宮原選手はジャンプも美しく安定しており、表現力は他を圧倒しています。華麗、優美、顔は子どもですが演技のおとなっぽさ、しなやかさ、優雅なのに速く、ステップも見事、切れのよさなどがみる者を魅了します。

総合４位につけた三原舞依ですが、三原選手のフリー演技の得点１４７点台、宮原選手の１４６点台は得心いきません。採点方法が変われば結果に大きな影響をおよぼすのかと嘆息。しかし宮原選手のひたむきさ、真摯な姿勢に感服します。

　　伴侶の友ＯＴ君は重篤な病と戦ってきましたが、ことし１１月下旬、逝去されました。山河を愛し、酒を愛し、京都を愛し、ハイキングを愛し、ユーモアと男気があり、感性ゆたかな人でした。ＯＴ君が２０１３年「小磯良平大賞・佳作」を受賞したのが下のアクリル画「ハッピー・バースデー」（１６２X１６２cm)。花の名はクリスマス・ローズ。リアルな画ゆえ生花にもみえますが画です。

　ＯＴ君との共通点は「電光石火」です。行動の早さ。でも私は「脱兎の如く」かもしれません。ことし夏ごろから気力がおとろえ、それでも１３年つづいた連載「書き句け庫」はどうにか最終回をむかえました。昭和期・学生時代の追懐は終了しました。さらば思い出。

　心残りは永年のテーマ「平安末期」。「西行」、「知盛」、「運慶」がほとんど手つかずのまま終わるかもしれないということです。気力を失う日、命運つきる日を先延ばしできればと思いつつ、先延ばして伴侶に迷惑かけないよう願いつつ、「あっちを向く」日がやって来ることに不安を感じながら、新連載「あっち向いてほい」を綴る日々を始めましょう。