2023年12月16日    秀作 エンド・オブ・サマー 消えた少年
 
 WOWOWで放送される連続ドラマ北欧サスペンスはどうしようもなく駄作ばかりで、「凍てつく楽園」の初期シリーズ(刑事トーマス役でヤコブ・ゼーダーグレンが出ている)だけはまずまずの出来だった。
 
 「北欧サスペンス」ものの品評は誰が担当しているのか知らないけれど、よくもまあ賞讃しているものだと呆れる。
脚本がなっていない。ムダなシーンがだらだら続き、手際よく編集すれば3話ですませられるドラマを8話にするとテンポがわるすぎておもしろくない。
 
 1話目の15分間をみれば脚本の良し悪し、ムダの多いことがわかる。録画しても駄作は8話だろうが10話だろうが、1話目の15分だけみて全部消去。
 
 北欧サスペンスはほとんどスウェーデン産。仕入れ値が安いからWOWOWは買う。PR文句は、「北欧の臨場感に満ちたサスペンス」、「先の読めない展開に釘付け」。バカバカしいことこの上ない。 担当者は若年層か、サスペンスやミステリーの何たるやがわかっていない中年層かもしれない。
 
 無為な時間を過ごしても人生は長いから無為は有益となり、無為を勧める人間もいる。必要なことのみおこなう者を蔑視することさえあった。
そういう生き方もいいだろうが、ドラマに無為なシーンを沢山つくられてはたまらない。時間も無為も忘れるほど記憶が遠のいた今、残された時間の短さだけ実感する。
 
 
 2023年12月3日、北欧サスペンス「エンド・オブ・サマー 消えた少年」全6話(1話45分)を録画、3日後から2話づつみる。主役女性ヴェラはストックホルムから田舎に帰省した心理療法士。
12歳のとき、弟ビリーが消息を絶ち、地元警察は全力をあげて捜索するが見つからず、5歳の息子を溺愛していた母親はまもなく池に身を投げて死ぬ。
 
 20年後、身近な人々を亡くし、悲しむ患者のグループ・ケアに携わるヴェラのもとを訪れた記憶喪失の謎の青年イーサク。風貌は弟にどこか似ており、徐々に記憶を取りもどしてゆく彼に弟の面影を重ねるヴェラ。メガネをかけているときの療法士的風貌と、はずしたときの表情が対照的。
 
 ヴェラの父親は20年も経って蒸し返す彼女を不愉快に思い、怒りをあらわにする。失踪直前、弟に冷たくあたったヴェラは自分を許せないのか、ビリーは生きており、イーサクは弟かもしれないという気持ちが募る。イーサクを演じる男優に独特の影があり、芝居もうまい。複数の人間が何かを隠している。そこまでは従来何度もくり返されたサスペンス・ドラマである。
 
 急展開するのは第4話。弟の失踪後、片田舎にやってきた新任の警察署長は若いが優秀。若かったころの名優マックス・フォン・シドーを彷彿させる。事件の真相に迫るが、地元有力者で土木業者のヴェラの伯父(母の兄)が妨害。
第4話の終幕、母を追うヴェラの後ろに、弟の失踪とは無関係なのだけれど、思いもかけないシーンが登場する。そのあたりから大詰まで息詰まるシーンの連続、テンポがいい。北欧サスペンスとしては出色のでき。
 
 ヴェラの兄は警察署勤務の刑事。父の気持ちを慮って再捜査に消極的だったが、ヴェラの熱意に動かされ事件解明に乗り出す。ある体験によって20年前の母親の心理状態に気づいたヴェラ。母親の死はビリーの失踪だけが原因でなかったことや、父親が秘匿していた事実も明かされる。文言ではなく映像だからこそのバスルームは鮮明に記憶されるだろう。
 
 北欧もWOWOWも、やる気でやれば視聴者も納得する。英国では毎年数本これはと思えるドラマが放送されている。北欧は制作費をドブに捨てるようなことなく完成度の高いドラマを制作し、WOWOW担当者も秀作を輸入してもらいたい。この数年、本作とデンマーク産の連続ドラマ「ヨーアンソン一家」のみがおもしろかったということがないように。

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