2024年4月19日に緊急入院した伴侶が4月27日に退院した。
2010年、40年ぶりに開かれた中学時代の同窓会で再会した級友のなかに、中学生のころはそれほど親しくなかったのだが、伴侶の母と級友の家は近く、老々介護という接点が縁となり交流するようになった。
当初2年間おとなしくしていた級友は、約束を度々反故にし、わがままな言動を重ねても伴侶が何も言わなかったせいかつけあがり、自分本位、傍若無人をエスカレート。
小生が「サルとつきあうな」と怒っても、独身の彼女が可哀想だから、悪気はないと12年間、我慢を重ねてきたあげく、とうとうストレス性胃炎を発症。ストレスがサルの身勝手な言動の累積によるのか、小生の怒りも関係しているのか。
4月18日、激しい腹痛に襲われ行きつけのクリニックで受診、すぐ検査してもらいなさいと紹介状を渡される。市立病院へ行って採血し、白血球とCRPが通常の3倍以上という異常な数値に腹膜炎と診断、即日入院を通告され、19日入院。
入院直後、炎症を抑える抗生物質の入った24時間点滴を4日間つづけ、その後も日に16時間点滴を投与され、入院3日間絶食。エコー、造影剤CT、MRIなどの検査、退院前日は胃カメラと大腸内視鏡検査。病身の検査は体力を消耗する。
伴侶は70年の人生で初入院。点滴も初。2019年、日光角化症で切除手術を受けているが、入院せず日帰りだった。入院が長びくと考える時間が増え、昔の記憶が怒濤のごとく押しよせる。
退院して10日間疲れが癒えず、平癒まで時間がかかったけれど、5月15日ごろようやく復帰した。去年5月とことし2月の松山の旅をなぜか思い出し、松山を舞台にした昔のドラマ「花へんろ」をみたいとつぶやく。
1985年(第一章)から88年(第三章)にかけて放送された19話の連続ドラマ。大正末期〜戦前の昭和期を描く。脚本は早坂暁。
1981年放送のテレビドラマ「夢千代日記」(早坂暁作)は、置屋の女将・吉永小百合が出演作のうち唯一ダイコンではなかった秀作。大信田礼子が田舎芸者をコミカルに演じ、片桐夕子は元ストリッパーの芸者を好演。
林隆三、中条静夫の刑事も存在感があり、ヌード劇場オーナー・長門勇が持ち味を存分に出し、女中の夏川静枝や旅館の女将・加藤治子もさすが。
今回、「花へんろ」のDVDを購入して、5月17日から24日にかけて全編を視聴。太平洋戦争前の昭和。愛媛県松山市伊予北条(風早町)には古い家並みが保存され、懐かしさがあふれる。主人公・桃井かおりと、朴訥(ぼくとつ)な夫・河原崎長一郎の芝居は自然で特筆に値する生涯の当り役。ナレーターは古き良き昭和を感じさせる渥美清。
39年前、花へんろは第一章〜第三章まですべてみた。しかし今回ほどの感動はなかった。自分で言うのもヘンだが、さまざまな経験をへて高齢となり、モノをみる目、役者を評価する目が肥えたのかもしれない。それとも、伴侶が生死を左右する重篤な病でなかったことに安堵したからなのか。
共演者は桃井かおりの姑に沢村貞子、舅に下條正巳、夫の兄で放蕩息子に中条静夫、その妻に藤村志保。名脇役の殿山泰司、加藤治子、昭和の名優がずらりと揃う。
中条静夫がふだんやらないお座敷芸を披露する場面は、まじめくさった顔でやるからおもしろい。芸の新境地を拓くとはこういうことかと思えた。どこか垢ぬけせず、中条静夫の妾となる芸者上がりの磯野洋子も抜群。
河原崎長一郎の実家は何代かつづく商家。昔はお遍路さんの休息所でだんごを売っていたという。大正・昭和期は小規模百貨店「富屋勧商場」(とみやかんしょうば)。便箋、万年筆など文房具、こうもりがさ、化粧品、書籍などを販売。本家と分家とに店舗はわかれ、河原崎・桃井夫婦は分家をきりもりしている。
彼らの弟を森本レオ、駆け落ちする元娼婦を永島暎子。ほかに小林亜星、佐藤友美、谷村昌彦など。第二章のゲストに財津一郎が説教強盗の役で登場し、共演者も愉しめる芸で笑わせてくれた。
実家の裏手に文房具屋があって、文房具好きの小生は鉛筆、消しゴム、ノート、スケッチ帳、定規、コンパスなどを買い集めた。鉛筆をぐるぐる回す小さな鉛筆けずりも収集した。毎週、新製品が入荷しているか確かめる。
店主も心得ており、店先に並んでいない新製品があれば奥から出してくる。文房具屋がドラマの舞台となる多部未華子主演の連続ドラマ「ツバキ文具店〜鎌倉代書屋物語」(2017)はおもしろかった。
第二章のゲストで出色だったのは目の不自由なお遍路さんをやった市原悦子。まさに至芸。市原悦子に触発され、桃井かおりの芝居に磨きがかかったのではないだろうか。第三章・最終話における桃井かおりの芝居が物語っている。第二、第三章に出ていた江原真二郎もよかった。
あのようなドラマは二度と来ないだろう。名脚本家・早坂暁も、沢村貞子や下條正巳、市原悦子に匹敵する名優もあらわれないと思う。ドラマのどういうシーンで、どのようなハラで演じるかを知ってる人たちだった。昭和の懐かしい景色、懐かしい人々、こころの風景。
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