代表チームを決めるカーリング女子の競技は数々の名勝負に彩られてきたけれど、2025年9月11日〜14日に行われたゲームほど意外な展開に終始し、スリリングな代表決定戦は記憶にない。
緒戦でSC軽井沢にぶっちぎり勝ちし、フォルティウスにも勝利したロコソラーレは3戦目から呆気なく惨敗した。敗因はスキップ藤澤五月の大不調。メディアなら精彩を欠くと書くだろうがそんなものではない、藤澤ではない藤澤がストーンを投げていた。
長い間王者の座を明け渡さなかったロコソラーレもついにその座を降りるときがきたのだ。ロコソラーレの国内ライバルは中部電力とフォルティウスだった。
4年前から数々の熱戦をくりひろげ、カーリングファンの目を釘付けにしたのは3チームの力が伯仲していたからなのだが、勝負運の強いロコソラーレが頭ひとつ抜けていた。
今大会、フォルティウスは2連敗のあと3連勝し、上位2チームに残り、予選1位のSC軽井沢とオリンピック日本代表の座を賭けて争うことになった。ロコソラーレ、フォルティウス、中部電力が強くなったのは互いにしのぎをけずりあい、自分も苦しみ、相手も苦しめたからである。SC軽井沢はそういうチームを見て育った。
1998年、全国の球児は横浜高校にあらわれた平成の怪物・松坂大輔を目標に戦った。打倒松坂。甲子園で彼を打ち崩さねば決勝進出は望めない。ロコソラーレを倒さなければ世界選手権にも五輪にも進めない。
技の差はほとんどない。決定力の差である。全チームのレベルが上がったのはロコソラーレの存在あってこそと言っても過言ではない。ロコソラーレは五輪で連続メダル(銅と銀)を獲得。
ロコソラーレはリザーブも入れた5人が共に笑って、共に泣く。チームワークも友情も結局、単純な仲間意識の発露が結びつきを強くする。たらたら講釈を言う者や、暗い性格は論外、行動力のない人間もお呼びではない。夜行性の動植物でさえ月明かりに向かう。明るさが仲間を呼び寄せる。暗さは相手を遠ざけるのだ。
ロコソラーレの創設者・本橋麻里は明るく癒やし系。カーリング女子の試合がテレビ中継されはじめたころ、カメラが追うのは彼女だった。絵になるからだ。
名選手ということならチーム青森、北海道銀行でスキップをつとめた小笠原歩(旧姓小野寺=本橋より8歳年長)だろう。2014年ソチ五輪で小笠原は開会式旗手をやった。現役引退後、SC軽井沢ジュニアのコーチとなった小笠原は、2022年世界ジュニアカーリング選手権でチームを優勝に導く。
メディアからマリリンと呼ばれ、鈴木夕湖、吉田姉妹、藤澤五月をロコソラーレに招聘し、年下の彼女たちからまりちゃんと呼ばれた本橋麻里は名伯楽である。現役時代、各テレビ局から出演依頼が殺到しても彼女は断った。ロコソラーレ創設のスポンサー集めに奔走していたのだ。
ロコソラーレの活躍を見るたびにサロマ湖畔の町・常呂(ところ)を思い出す。鈴木夕湖(ゆうみ)の湖はサロマ湖、小笠原、本橋、鈴木、吉田姉妹は常呂町出身である。そして常呂の北西に隣接する紋別。道東の町や村は斜里から知床へ、もしくは網走へ向かう道中、何度となく通った。紋別への帰路に見るサロマ湖やコムケ湖の夕暮は美しい。
9月14日、決勝に残ったのはSC軽井沢とフォルティウス。午前の試合でフォルティウスが敗れるとSC軽井沢が代表となり、フォルティウスが選ばれるのは午前、午後と連勝しなければならない。
8時半におこなわれたゲームはフォルティウスが7対6で辛勝。14時半のゲームも大接戦となったが、6対5でフォルティウスが勝利した。最終エンドはストーンの差が数センチだった。
SC軽井沢の選手が20代前半〜半ばに対してフォルティウスは30代半ば。SC軽井沢のスキップはジュニア時代から名を知られ、テレビカメラが顔をアップで撮る上野(姉)。上野本人もカメラを意識している。カーリングの腕は藤澤、現在の吉村紗耶香(フォルティウスのスキップ)に匹敵する。
ロコソラーレが敗退したからにはフォルティウスの吉村紗耶香、近江谷杏奈、小野寺佳歩を応援する。今回の吉村は気迫に満ち、近江谷、小野寺にも何が何でもオリンピックに行くという決意を感じた。そして初めて吉村の泣き顔を見た。
ロコソラーレの後塵を拝していたときには見せることのなかった涙。最終エンド、いつものように近江谷とがっちり手のひらを合わせ、目力をこめ、前をしっかり見てストーンを投じた吉村の顔がまぶたに浮かぶ。
12月カナダでおこなわれる最終予選で上位2チームに残り、オリンピック出場を果たしてもらいたい。ロコソラーレも同じ道を辿ってきたのだ。
すでに強敵スイス、英国は五輪出場を決め、ライバルとなる韓国、中国、カナダ、スウェーデンも五輪に出てくる。藤澤五月はカーリング史上に燦然と輝く名スキップ。
ロコソラーレの五輪連続出場、海外の強敵を打ち負かす快進撃は藤澤なくして成し遂げられなかった。しかし彼女を擁するロコソラーレの時代は影を落とし、吉村紗耶香を飛び越え、若いSC軽井沢の時代が来ていることを告げるカーリング女子2025だった。
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