2026年1月27日    モンテ・クリスト伯
 
 2026年1月4日に始まった連続ドラマ「モンテ・クリスト伯」全4回が1月25日、最終回を迎えた。各回104分、4週約400分はまたたく間に過ぎた。フランス・イタリア合作だが、主役モンテ・クリスト伯(エドモン・ダンテス)のサム・クラフリンは英国俳優、初回、2回目の重要な役ファリア神父のジェレミー・アイアンズも英国の名優。随所に英国俳優が陣取る。
 
 アレクサンドル・デユマの大作は過去に何度も映像化された復讐劇の名作で、1844年から1846年に新聞連載され、併せて出版されたベストセラー長編小説。デユマは複数の事件を参考に構想を練ったという。
 
 20世紀に創られた映画、ドラマの復讐劇はモンテ・クリスト伯の焼き直し、またはコピーといっても過言ではない。デユマ作品の壮大、緻密、流麗、波瀾万丈、独創に対してほとんどのドラマが凡庸、拙劣だ。
模範となり、賞讃されるドラマ・映画は、要所々々に緻密、流麗、波瀾万丈、独創、そして人情が盛り込まれ、脚本、演出、役者が秀逸。
 
 文豪の作品でも長編小説には冗漫なせりふが連なることもある。登場人物を散逸し、恋愛や詠嘆の場面を設けて読者を注目させようとするのだが、ムダが多ければ退屈で飽きる。
映像は原作登場人物のせりふのムダな部分をカットし、渋面、怒り、喜びなどを役者の表現に任せる。それでどうなるかというと2000頁を800頁に短縮。鑑賞する側からいえば、長々しく時間を費すると疲労し、その結果、享受すべき真価を損なう。
 
 本作は後の創作ドラマに影響をおよぼす。サスペンスドラマ、詐欺師を主人公とした冒険ドラマほか、近現代の娯楽作品の原型が「モンテ・クリスト伯」。
過去、さまざまな俳優がモンテ・クリスト伯を演じてきた。近年ではフランスが制作し、主役はジェラール・ドパルデュー。抜け目はないが伯爵の品格に欠け、山賊や海賊から信頼される篤い情を感じられない。
 
 一方、サム・クラフリン(エドモン・ダンテス=モンテ・クリスト伯)の腹心は忠実なだけでなく、強い信頼関係で結ばれている。部下に十分な報酬を与え、誠意を示す。裏街道を歩き、人間の醜さも冷たさも熟知している悪党は金銭のみに釣られて忠臣となるわけでない、彼らが秤にかけるのは誠実さと熱意である。
 
 密輸船の船員だった腹心ジャコポ(ミケーレ・リオンディーノ)は、漂流していたダンテスを救い交誼を結ぶ。もうひとりの腹心ルイジ・ヴァンパ(リノ・グアンチャーレ)は山賊だったが、山賊になる前、ダンテスの道案内をして知り合う。このふたりを演じたイタリアの俳優がうまい。悪漢だが機知に富み、ユーモアがあり、欠かせない役割。
 
 ドラマはナポレオンがエルバ島に追放された1815年に始まる。船員だったダンテスがナポレオンの密書をパリに届けるという偽情報を警察に流した友人2人の計略で逮捕され、投獄を余儀なくされる。
 
 15年の牢獄生活をへたダンテスは、おなじように無実の罪で入獄した神父(ジェレミー・アイアンズ)と出会い、歴史、地理、文化など多くの知識や、教養、マナーなどを学ぶ。
神父は臨終間際に宝のありかを描いた地図をダンテスに渡す。神父は投獄される前、仕えていた貴族に伝わる古文書を解読していた。宝島へ行く準備中、無実の罪で捕縛されたのである。
 
 神父の死体と入れ替わったダンテスは脱獄に成功、しばらくして大富豪モンテ・クリスト伯として現われる。自分を陥れた者たちへの復讐は、腹心や協力者なしに進めることは困難。
協力のさせ方、実施方法もあざやか。モンテ・クリスト伯自身が敵を手中におさめていく過程を無理なく、スリリングに描く。知識、教養が武器になるという筋立てにも魅せられる。
 
 敵役(かたきやく)3人がダンテスの智謀に乗せられ、悪事は露見するが醜態を見せず、言い逃れもしない姿勢にドラマの質の高さを感じた。醜態や狼狽は三文芝居の常套手段。
そうではなく、敗北感、落胆、絶望をうまく表現するのが悪役のみせどころ。一方で、主役サム・クラフリンの芝居は知性、聡明、勇気、大胆に満ち、生涯の当たり役。
 
 名作が記憶に残っているのは、きちんと整理しておぼえたのではなく、自分なりにどこが良かったのか、誰に注目し、どういうシーンや芝居に感銘を受けたのかを胸に刻んだからかもしれない。「あぁ、良かった」で終わっていれば克明に記憶できなかったろう。
 
 原作がすばらしければすばらしいほど、ドラマ化するにあたって脚本、演出、撮影、キャスティングを練り込まねばならない。スタッフ、役者が一丸となって取り組み、視聴者をドラマの渦に巻き込む。名作の生まれる環境はそこにあってほかにない。
海外ドラマといえば主として中国ドラマ(購入価格が安い)であると言わんばかりの某民放局が、「モンテ・クリスト伯」を放送したのは面目躍如。局の関係者に感謝いたします。
 


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