2021年8月24日    映画館へ行けなくなって
 
 2020年1月24日、梅田で「フィッシャーマンズ・ソング」(2019英国映画)をみて以来、映画館へ行っていない。退屈しのぎに録画ダビングした連続ドラマ(「主任警部アラン・バンクス」ほか)やフランス映画(「おかえり、ブルゴーニュへ」)など約20作品をみた。
「おかえり、ブルゴーニュへ」のストーリー展開は要所をおぼえていたけれど、細部のほとんどを忘れており、それがかえってよかった。あらためて感じたのは、ぶどう園の四季の色彩が豊かなこと、色調が落ち着いていたこと、総じて撮影が秀でていたこと。最もよかったのは配色。
 
 春、初夏、秋のぶどう園の色、周囲の景観、天候に合わせた出演者の衣装の色(紺色や栗色)、収穫したぶどうの収納箱の色(赤とグレー)までもが美しく組み合わされ、それぞれのシーンの配色を追うのが楽しかった。そしてよく出来た映画は要所に滑稽なやりとりがある。こういうご時世、フランスや英国の田舎を舞台にした映画、ドラマをみると心が洗われる。
 
 8月に入って映画館でみたヨーロッパ映画(一部例外)のDVD、BDの購入(通販)を始めた。ほとんどは心安まる作品。「ウェールズの山」(英)は地図測量士が南ウェールズの小さな村に滞在する。実際に起きた出来事をヒュー・グラント、タラ・フィッツジェラルドがコミカルに演じている。村人たちが松明をかざし、列になって丘を歩くシーンの撮影(遠景)が見事。
 
 ほかに買ったのは、「画家と庭師とカンパーニュ」(仏)、「ダーク・ブルー」(英・チェコ・独・スロバキア合作)、「レイジングドッグス」(仏・加合作 日本未公開)、「湖のほとりで」(伊)など。「レイジングドッグス」は思いもかけない結末のスリラー、「湖のほとりで」はミステリーの名作。結末がわかっているのにまたみるのは、やめられないからだろう。
 
 チェコ映画には「コーリャ、愛のプラハ」、「この素晴らしき世界」という秀作があり、そのときの静かで深い感動がよみがえる。「ダーク・ブルー」(2001)は第二次大戦前後のチェコと南イングランドを舞台にしてチェコから英国へ渡ったパイロットと、イングランドの女性(タラ・フィッツジェラルド)が主になってストーリーが展開する。
 
 主人公のパイロットもうまかったが、青年というより少年というほうがいい部下のパイロットに確かな輪郭を与え、それが見事に成功した。パイロットたちに英語を教える年輩女性教師の「わたしの戦いの邪魔をしないで」というセリフなど随所に英国のユーモアとチェコの香辛料が効いている。
 
 ラストの10分は目が離せない。戦後、主人公が英国に行き、生垣越しにタラ・フィッツジェラルドと再会するシーンはほんの数分なのだが、強く印象に残る名場面である。青年(または少年)パイロットの「いつも後ろにいる」ということばは「ダーク・ブルー」を名作に仕立て上げ、主役男女3名の生涯の当たり役となった。
 
 1990年代に一般公開されたヨーロッパ発の映画はみごたえがあった。21世紀になって映画製作が終わったわけではないのに、東欧の映画は輸入されなくなっている。
数日前「マルセルの夏」と「マルセルのお城」のBDがセットで安くなっていると言ったらば、伴侶がプレゼント用に買おうと言って注文。
 
 映画館でみたものばかりみているのではなく、見逃した作品のDVD、もしくはBDも買っている。おおむね英国のテレビで放送された連続ミステリーやサスペンスドラマ。本邦でこれといったテレビドラマ、映画が放送されておらず、手軽な映画館へ行けなくなり、ほかにこれといった娯楽も見つけられず、そういう日々を送っている。
 
 


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