2021年9月20日    ザ・クラウン(2)
 
 王冠を賭けた恋というメディアの宣伝文句で有名になったウィンザー公(エドワード8世)とシンプソン夫人だったが、彼女には魅力もなく、主役にしても成功は望めない。
 
 ウソかマコトか、第二次大戦中ウィンザー公とナチスドイツとのあいだの、「ドイツ戦勝の暁にウィンザー公が再び国王に即位し、その交換条件として機密情報を流すこと、英国反政府組織設立にドイツが協力する」という密約が2010年代に明らかにされたという。
王位への未練、シンプソン夫人を王妃にしたいとの強烈な思いが密約の原因となったのかもしれない。事の真偽はさておき、売国奴の烙印を押されなかったのは幸いというべき。
 
 マーガレット王女が空軍武官タウンゼント大佐と大恋愛のすえ別れたのは、マーガレットの気紛れ、もしくは王室の猛反対もあってのことかと軽い気持ちで考えており、彼女がその後写真家と結婚・出産し、夫の不倫、派手な生活を経て男漁りを続けたのは、血脈によるのだろうと思っていた。
「バンク・ジョブ」(英)は地下にトンネルを掘って金融機関に入り込み成就する痛快娯楽映画で、結婚が破綻したマーガレットの男漁り映像が貸金庫に隠されおり、泥棒は王室スキャンダルに巻き込まれる。
 
 「バンク・ジョブ」だけをみればマーガレットはなんという女かと思うのだけれど、「ザ・クラウン」をみていると、タウンゼント大佐(マーガレットより16歳年上)と別れさせられたマーガレットに同情の気持ちが湧いてくる。男女のことは単純な考えに支配される、だが王族は支配されてはならない。わる乗りするメディアをたやすく喜ばせてはならないのだ。
 
 彼女は姉より美しいことや、自由度が利くこともわかった上で、そういう点ではわたしのほうが勝っていると言わんばかりにふるまう。ダンスホールで踊るマーガレット。開いた扉の向こう側を通りかかる者。見られて扉を閉めるときの彼女の目。うまいものである。奔放な彼女の言動はウィットに富み、笑わしてくれる。王室側は恥さらしとみなす。
 
 実際のタウンゼントはドラマの俳優(ベン・マイルズ)より甘いマスクをして美男だが、厳しい顔のベン・マイルズのほうが軍人っぽくみえる。無責任なメディアは国民の気持ちを代弁するかのごとくマーガレットを応援する。なに、記事にすれば部数が増えるから取材の手をゆるめないだけだ。
 
 結婚についてマーガレットに賛成の意を示した女王はカンタベリー大主教から猛反対され思い悩む。ヨークやウィンチェスターなどの大主教や主教も反対であると言われた女王は、王室の規則と宗教がらみでがんじがらめになる。最後の手段で誰に働きかけるのか。うまくいくのか。
 
 ところで最近、女王の夫君エディンバラ公が薨去された。ギリシャの没落貴族フィリップ(後のエディンバラ公)がエリザベスと結婚した(1947年11月)ころ、彼女は王家の継承者として育てられたわけでなく、ヨーク公(後の国王ジョージ6世)の長女としての徳育を受けていた。
 
 10代(13歳?)でフィリップに一目惚れしたエリザベス。そのころは自分が重責を担うなど夢にも思わなかったろう。フィリップにしてみれば、英国王族の娘と一緒になるのは逆玉、思う存分羽根を伸ばせると思ったろう。何よりも、夫ヨーク公が王位継承者第一位であったなら、妻は落ちぶれ貴族との結婚を許さなかった。
 
 女王戴冠式のあと、エディンバラ公(フィリップ)は身勝手、わがままを押し通す。戴冠式で女王にひざまずくことに抵抗もあったろう。機密書類を女王は見ることができたが、彼は見られず、そのことに対して不満だったことがドラマのなかで明かされる。当時の侍従や側近の証言である。エディンバラ公は失言大君でもあった。
 
 制作者が事実を忠実に描こうとしたか、エディンバラ公の傲慢を快く思っていなかったのか、その両方なのか、よくわからない。女王が崩御されれば、カミラと結婚したチャールズを飛ばしてウィリアムの即位を願う人は結構いる。
 
 女王の母エリザベス王太后の出演シーンで印象深いのは、スコットランドへ行って友人夫妻(夫役は「名探偵ポワロ」でポワロの執事をやったディビット・イェランド)と会うシーン。王太后は夫妻に癒やされ泣きそうになる。
 
 ハイランドの簡素で心温まる懐かしい風景。王太后にとっての隠れ家を紹介してもらう旅でもあり、隠れ家の所有者は王太后であることを知らない。「ザ・クラウン」は主たる登場人物それぞれの見せ場を設け、王太后をやったヴィクトリア・ハミルトン感動のシーンだ。
                     
                            (未完)
 
         本物のマーガレット王女とタウンゼント大佐 1950年代初め、マーガレットは23歳くらいと思われます。


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