2021年12月22日    秀作 Unforgotten
 
 埋もれる殺意(原題 Unforgotten)はロンドンにある警察署に勤める女性警部キャシーとその数名の部下が、過去におきた難解な事件の解明に乗り出す英国産ミステリードラマである。クライムサスペンスということだが、容疑者のなかから犯人を割り出していくという点においてミステリー。
 
 「Unforgotten」は収録語数7万8千語の「カレッジライトハウス英和辞典」(研究社)に載っておらず、27万語収録の「リーダーズ英和辞典」(研究社)と、36万語収録の「グランドコンサイス英和辞典」に載っていた。意味は両者ともに「忘れられていない」。
 
 建設現場や土地開発工事現場から白骨化した死体が発見される。明らかに殺人事件とわかる場合もあるが、事件か事故か不明な場合もある。調査を手がけるキャシーと、手腕を発揮する部下たち。
ドラマをみる者は目立とうとしない彼らのすぐれた能力を感じとり、自然でリアルな芝居に魅入る。仕立てのよくない服と庶民的住居。生活感に満ちている。米国産刑事ドラマの多くは、漫画から抜け出たような登場人物が50年たっても変わらぬシーンとセリフをくり返す。
 
 キャシーをやっているニコラ・ウォーカー(下の画像左)の役柄は特に際立っているわけのものではなく、捜査では直感を重視し、情熱と追究心を失わない。彼女は被害者と容疑者の家族を平等に取り扱う。芝居と感じさせない卓越した表現力。
 
 被害者家族への取材が加熱して、どちらが加害者なのかと言いたくなる気持ちをせりふで言わず、役のなかで示す役者。家族は双方ともつらい。彼らの人生を置き去りにして取材をつづけるメディアは変態というしかない。罪をなすりつけたり、語りたくない人の口をこじ開けるのは中国、ロシアに任せておけばよろしい。
 
 Unforgottenシリーズ1〜3は英国で2015、17、18年に、最終シリーズ4「30年目の贖罪」が2021年に放送された。本国でヒットしたのは、捜査員が職務に自らを托し、救われない人間を救おうとする熱意にあふれ、主な出演者の家族愛に共感するからだ。
 
 事件の捜査に集中すると家庭を犠牲にせざるをえなくなる。なのに出世はおくれる。同僚や部下とうまく折り合いをつけねば快い協力を得られなくなることもある。捜査が長引くと上司から突き上げをくらう。刃向かうと出世はさらにおくれる。
退職しようと何度も考えたが、結局できなかった。辛い仕事を熱心にやれば心をむしばむけれど、なんとかしなければならない。有能な捜査員の宿命である。
 
 「30年目の贖罪」は1〜3と異なり、犯人の目星がついていても先の読みにくい展開。じっくり描きながらテンポがいいのは英国流ドラマの特長。日本では2021年12月18日WOWOWが放送。
 
 容疑者4人の中年男女(男性2名女性2名)は警察学校出身(同期)で、現在、警察署副本部長の女性もいる。30年前、卒業祝いの飲み会後、事件発生時4人は車に同乗していた。
誰が真の加害者か、ミステリアスな展開に最後までひっぱっていかれる。容疑者では副本部長役スーザン・リンチが特によかった。質素な暮らしのなかで人生に向き合い、どうしようもなくわがままで、救いようのない老母に悩まされている。
 
 容疑者はそれぞれ離れた土地に住んでいる。ケント州ロチェスターや、ピークディストリクトのバクスターなど。バクスターの美しい風景はこのドラマに欠かせない。プロローグの音楽はミステリーを予感させる。
 
 スーザン・リンチとニコラ・ウォーーカーはおおむね同い年だ。最終話で共演し、ドラマに賭ける役者の思いが伝わってくるすばらしい芝居をしてくれた。6話(各話約45分)を録画して、3話づつ2日間でみた。アッという間だった。
惜しいという気持ち、始まったものはいつか終わるというあっけなさが交錯。2022年元旦に「刑事モース」ケース31〜33(各話約95分 一挙放送)がなければ脱力感に襲われていた。たのしみがあればホッとする。
 
 
                  主役の女性警部と部下の警部補。警部補はパキスタン人という設定


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