2022年8月1日    鈴虫と坊ちゃん
 
 7月29日、四国の坊ちゃんからメールで暑中見舞いが届いた。「毎日暑くてたまりません」で始まる文面はいつもより長く、久しぶりに隣町へ行ったそうな。住まいは東温市南方(松山市の東に隣接)で、松山自動車道「川内」(せんだい)インターから至近距離。数年前まで「来てくれ。インターを降りたらすぐじゃ」と言っておられた。
 
 2013年6月上旬、安曇野へ行ってHPアップしたときも「安曇野より近い。温泉もある。井上さんの車ならすぐじゃ」。坊ちゃんが幹事をやったOB会(2013年6月1〜2日)の6日後。
小生の自宅から340キロ、中国道〜山陽自動車道〜瀬戸中央道〜高松自動車道〜松山自動車道経由で川内まで、1回休憩して約4時間半。行くなら飛行機で松山(40分)まで行き、レンタカ−。それなら疲れない。なんとなく計画は立てたけれど、延ばし延ばしにしているうちに盛りだくさんの疾病が襲いかかる。
 
 暑中見舞いによると坊ちゃんは隣町の産直市場で鈴虫を買った。その夜から「リーン、リーンと元気で鳴いている」。坊ちゃんは20年以上前から毎年鈴虫を買い、そのたび飼育と繁殖に挑戦しているが失敗つづきらしい。去年まで鈴虫は涼しげに鳴いていた。ことしは涼しい声でないような気がするとも書いていた。
 
 成功した人は鈴虫を沢山繁殖させているそうである。そのつづきは、自宅の「庭のコオロギは世話もしないのに大勢いて、うるさいほど鳴くが、コオロギが鳴きはじめると涼しくなる」。ことしはコオロギが鳴いても涼しくなるかどうか疑わしい。
 
 子どものころ、昭和28年から昭和32年ごろ、夏の夕方、天秤棒かついで魚や豆腐を売りにきた。「たらい」は祖母が洗濯するとき使っていた。たらいに入っている魚は東映映画「一心太助」でみていたが、実物を見るのは初めて。
金魚もたらいで売りにきた。「キンギョ〜エ、キンギョ」とよく通る声がすると買いもしないのに駈けだした。キンギョなんてめずらしくもないのに、あの掛け声につられて飛び出す。日没が近づくとホタル売りも来た。
 
 以前、テレビ時代劇に天秤をかつぐ鈴虫売りが登場した。虫かごに入れて売り歩く。坊ちゃんにそういう内容の返信メールを出した。そしたら、「何かしないと。虫売り、いいですね」と言ってきた。
それで思い出した。2017年7月初旬、岡山、倉敷で3人合宿をしたおり、倉敷美観地区を歩きながら「何かせんといけん。子ども相手の駄菓子屋はどうじゃろ」と小生に言う。坊ちゃんが定年退職して1年半たっていた。
 
 「やめたほうがいい。おっちゃん、まけてえなと言われてまけてたら商売にならない」と坊ちゃんに言った。何か返ってくるかと思いきや黙っている。図星だったのかもしれない。
その話を伴侶にしたら、「強面の駄菓子屋」と言い、「Mさんに言わないでよ」。言わないまま時は流れました。伴侶の目には小生がご隠居、坊ちゃんは熊さんか八っつあんと映っているのでしょう。
 
 坊ちゃんに虫売りは似合っているような気がする。自邸の庭に鈴虫はほとんど現われず、お盆過ぎに出てくるコオロギなら元手はかからないが売れない。退職後の職業として誰も考えない虫売り。20年かかっても実現しない鈴虫繁殖法をあみ出すことを期して。
 
                   江戸の虫売り 「江戸商売図絵」(中央公論社)


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