2022年12月9日    秀作 アウトランダー(2)

 
 英国連続ドラマ「アウトランダー」はシーズン1(16話)、シーズン2(13話)とシーズン3(13話)のつながり方がおもしろい。過去の人物が10年後どうなっていて、どのような登場のしかたをして、主役のクレアやジェイミーとどう関わっていくのか。
 
 1746年4月におこなわれたカローデンの戦いにクレアを巻き込ませたくない(理由は伏せる)ジェイミーは、彼女が20世紀と行き来していた巨石へと見送る。
1940年代後半のイングランドへもどったクレアは夫フランクと暮らすのだが、ジェイミーと過ごしたハイランドを忘れられない。夫フランクはハーバード大学に好条件で招かれているとクレアに告げ、ジェイミーがカローデンで戦死したと思っているクレアは人生をやり直すべくボストン行きを決意。
 
 第二次大戦でも18世紀でも治療にたずさわり、特に18世紀のハイランドで重傷者の外科手術までやっていたクレアの生きがいは医療と施術。彼女はハーバード大学医学部(大学院)に入学。女性は彼女だけだった。シーズン1、2と較べてシーズン3はさらにおもしろく、見逃せない筋立てとなっている。山あり、谷あり、そして海あり。
脚本が練り込まれ、各話の登場人物とクレア、ジェイミーの会話や展開に魅了される。回想シーンを極力すくなくしているのは、ドラマが人生ならば先へ進むしかないからだ。過去を振り返っている時間はない。実人生で難しいこともドラマなら可能。老境に至ると、現在や未来は霧のごとくかすんでいるだけだが、過去は夢のごとくよみがえる。
 
 すぐれたドラマは旅に似ている。自己啓発、自己発見という陳腐な旅ではなく、失った自分をとりもどす自己確認の旅。
 
 シーズン3でクレアとジェイミーはそれぞれ20世紀、18世紀で生活している。しかし互いの魂はふれあっている。ドラマをみて感じるのは、18世紀のほうが生き生きして、クレアをできるだけ早く18世紀に帰してあげたいということだ。
20世紀の医療は、18世紀のように助かる命を助けられないということはない、が、18世紀に存在した人間らしい温かさを失い、冷淡になった。
 
 クレアにとって治療は天職というほかない。病人を診るときの彼女はいつにもまして溌剌とし輝いている。使命感を発揮する状況に感謝しているとさえ思える。女性が主人公の長編ドラマで出色だったのは「チャングムの誓い」だった。あれから長い時間が経過したけれど、チャングムよりみごたえのあるドラマに出会えるとは。
「チャングムの誓い」はラブシーンがなくても魅せられた。「アウトランダー」はラブシーンが多く、それなしに西洋ドラマは成りがたいのか、濡れ場に期待する若い人(特に女性?)が多いのか、よくわからない。シーズン3からそういうシーンは減ったので時間がムダにならず快適。
 
 18世紀のスコットランド。誓いを守ることに価値があり、誇りだった時代。時代の奔流に飲み込まれそうになりながら毅然と立ち向かう人間。同胞の死を惜しみ、国が滅び去ろうとするとき、自分と逆の生き方をしていた人も記憶にとどめ、国の再生を願う。
「私を愛しているなら、ほかの人も愛している私を受け入れて」とつぶやく主人公。ふりむきざまに揺れる髪。時を惜しむように過ごすことはあっても、時を惜しむようにみるドラマはほとんどない。「アウトランダー」が秀作といえる所以である。
 
 シーズン3第5話の最終部でクレアが20年ぶりに18世紀にもどる瞬間の独白。小生も5歳〜8歳ごろに同じことを思った。
「子どものころ、水たまりが怖かった。水面の下はただの地面じゃなく、底なしの空間があると思っていた。足を踏み入れたら落ちていく気がした。今でも水たまりを見ると心はひるむ。でも足は勝手に動き、先を急ぐ」。
                     
                    (未完)

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