2023年3月26日    団時焉@京都人の密かな愉しみ
 
 若いころは思いもしなかったが、ドラマのおもしろさは記憶の断片を思い出すか出さないかで決まる。ストーリーが起伏と陰翳に富み、出演者の芝居がよくても、一片の追懐もできないドラマは後年、記憶に残らない。一瞬のシーンをみて封印されたはずの人間を想い、過去を追懐する。
 
 ドラマとドキュメンタリーで構成される2時間の番組「京都人の密かな愉しみ」(2015ー2017)は圧倒的にドラマのほうがおもしろかった。初回放送をみながら、ドラマ部分は、おい、それとは創られない名作になると思えた。
各回のゲスト丘みつ子、神山繁、眞島秀和、戸田菜穂、佐川満男、菅原大吉、高岡早紀などの芝居もよく、特に一言もセリフのない高岡早紀がよかった。常連の常盤貴子、団時焉A深水元基が出色で、京ことばはヘタだったが銀粉蝶もいい味を出していた。ロケーションも抜群。京都の四季はどれもステキで、桜はひときわ美しい。
 
 「書き句け庫」2015年8月、2016年3月、同年11月の「京都人の密かな愉しみ」や、「散策&拝観」の「将軍塚青龍殿」にも書き記したように洛志社大学客員教授エドワード・ヒースロー役・団時烽フ芝居が愉しみだった。青龍殿大舞台(京都市東山区)で渋い黒のオーバーコート、赤いマフラーを身につけ、清々しく満ち足りた面持ちで歩いて行く。
ヒースローは京町家の2階でひとり暮し。出町の枡形商店街の豆腐屋で買った豆腐を碁盤の目に切るとき「平安京」とつぶやきながら包丁を入れる。
 
 暗い出来事が少なかった若いころと、疾病を数多くかかえて陰気になりがちな今とではドラマの見方が違う。暗いドラマは疲労を増すだけでみる気がしない。セリフに理屈が多ければ耳が拒絶する。美しい風景は練り込まれたセリフを凌駕し、ドラマの輪郭を際立たせる。
 
 団時烽注目しはじめたのはドラマ「蝶々さん」(2011年11月 宮崎あおい主演)の「水月楼」下男役・弥助だった。大柄なのにチョコマカして身体を小さく見せ、独特の雰囲気をかもしていたけれど、出番は少なく不満が残った。
団時烽ヘかつて月刊ファッション誌「男子専科」常任モデル。男性整髪料MG5のテレビCMで売り出す。団時烽フ弟分は月刊誌「メンズクラブ」で売り出した草刈正雄。
 
 一昨日、昨日、「京都人の密かな愉しみ」のBDをみて、特に奥丹後半島をさまようヒースローが間人(たいざ)のカニをたらふく食べて文無しとなり、行脚僧(深水元基)と出会い、「同道させてはいただけまいか」と言うシーンや、庫裏の玄関で背中の新じゃがをゴロゴロ落とすシーンをみると懐かしさでいっぱいになる。
 
 脚本、演出、撮影、音楽、役者が揃ったドラマは何度みてもいい。風雅をわきまえ、人間味あふれ、和菓子屋、寺院の壁や家具を洗う「洗い屋」、学生、僧侶にまで自然体で接し、ダンディなのにひょうひょうとして庶民的、コミカル。京都の魅力を引き出す役目を見事につとめ、生涯独身を通した京都生まれの団時烽ヘ2023年3月22日、74歳で旅立った。
    
       
                京都御苑 近衛邸跡の桜 2009年4月3日撮影


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