あっち向いてほい

　７月９日、久しぶりに四国の坊ちゃんと電話で話しました。自宅の庭から撮影した月に村雲の画像を送ってきて、通常の返信はメールですませるのですが、確かめたいことがあったので電話連絡。開口一番、「町内の会長やら何やら三つも引き受けて大失敗じゃ」。その話は以前聞いていたが、「忙しい」と言いつつ機嫌よくこなしているはずでした。

　坊ちゃんは市役所勤めが長く、町内組織の予算を市からぶんどる役目や、どの窓口に何を言えばスムーズにいくとか、そういう段取り、話のもっていき方を熟知しておられる。地元だけでなく近隣の町内会から問われれば教授しているそうです。地域貢献を感謝する住民は多いと思います。

　話題はそこで留まらず、町内会からバレーボール大会を見学するということになり、東温か松山か定かではありませんが、日曜に中央体育館かどこかへバレーボールを見に行った。ところが館内で坊ちゃんは転倒、足の爪先が痛むので翌日整形外科で診察を受けたら小指骨折。

　若いころなら早く治っても、老齢とともに回復がおくれるし、どこが痛くても体調に悪影響をおよぼすと小生が言いかけると、後輩のＫくん、ＫＴくんに関して、「ＫもＫＴも○○○○ガンの手術をした」と藪から棒。何かヘンと思って確かめると、「そうじゃ、○○○○と違うばい」。部位を取り違えていたのです。

　話の続きで、「Ｕの奥さんと電話で話したことは何度もあるけん。Ｕが亡くなり半年たって電話しても誰も出ん」、「Ｕの奥さんはテンシンタマスダレの名人じゃ」と言う。天津？地名が違う。「いま天津と言わなかった？南京ではないのか」と言うと少し沈黙があり、「そうじゃ、南京じゃった」。

「アさて、さて、さてさてさてさて」で始まる南京玉すだれの発祥地は、調べてはいないが富山県とか。奥方と南京玉すだれの関係は意外です。坊ちゃんに言わせると彼女は名人級。見たことあるのかしらん。

　踊りや手品などで顔見知りを感心させたり驚かせることはめずらしくないことですし、６０年前なら南京玉すだれを隠し芸として人前で披露する方もいました。小学生のころ、竹製の巻きすを２個持ってふりまねしてみましたが、てんでサマにならなかった。現在、坊ちゃんの近所でも実演する人はいないでしょう。

　奥方はＵ君の百箇日をすませ、前々から購入していたマンションに引っ越したのでは‥。「自宅に電話してもいないと思う」と言ったら沈黙。「家族の思い出がいっぱいの邸宅にひとりでいるのは寂しい.家が大きければ大きいほど」と言っても沈黙。そのあと坊ちゃん三言四言ことつぶやいたけれど、何だったか忘れました。

　小生の伴侶が航空会社のスマイルキャンペーン全国どこでも６６００円を利用して仙台へ行った。午前零時にスタートしたキャンペーン航空券をスマホで確保（予約購入）したのは午前２時ごろだったと言うと、「わしゃそんなもの買わんけん。行くなら普通に買うばい」と言う。

２０１９年、東京でＯＢ会が開催されたとき、早割だったか特割だったかの航空券（松山ー羽田）発売初日、「１万円ぽっきりじゃ。取れた」とはずんだ声で電話してきたのは誰でしたっけ。国会議員のように多額支給はないとして、視察名目観光旅行の旅費交通費を長年のあいだ公費で賄ってきた坊ちゃん。自腹を切るのは痛い。

　話は約３０分続き、このままでは本題に入れないので、話を途中でさえぎって、「６月３０日か７月９日の鷹を継ぐもの、みた？」と切り出した。坊ちゃん宅の庭にヒヨドリ、ヤマバトほかの野鳥が飛来し、庭に巣をつくって子づくりする画像を送ってきたことがある。「みちょらん。このへんに鷹はおらん」。「ダビングしたＢＤあるけど、みる？」。「みようばい」。

　ＢＤが配送された日の夜、メールを送ってきた。「鷹匠届きました。早速視聴しました」と前置きして、「なれなれしくなったヒヨドリ、知らないふりして闊歩する山鳩、横っちょ向いて赤い実を食べるメジロ、鳴き声だけで姿を見せないウグイス。野生のものは人間の思うようにはならないものです」云々と記していました。坊ちゃんにしては練った文言。

　７月１８日午後７時過ぎ、付近を散歩していたらツクツクボウシが鳴いていた。ことし初めてのセミです。梅雨明けしていないのに鳴いていると思ったら翌日京阪神地方は梅雨が明けました。いつだったか梅雨明け前日に鳴いていました。予告だったのでしょう。

７月２２日、坊ちゃんから自宅庭園画像付きメールが届いた。タイトルは「夏が来ました」。早朝からセミがにぎやかに鳴きはじめ、風鈴もつけたそうです。空には入道雲が、夏の木立の下にピーチパラソルと、めったに使わないと思える丸テーブル、イスが写っています。入道雲が坊ちゃんの顔に見えました。