2008-08-27 Wed      英国をドライブする快楽
 
 車の運転時は、すいていて緩やかな道、刻々と移り変わる美しい景観、晴れた空が望ましい。
運転の楽しみを味わえるのはドライバー自身であり、同乗者の楽しみは窓外の景色をみるにとどまる。
その違いはあまりに大きい。運転中は景色をみれないではないかとお思いかもしれぬが、運転中でも景色を十分みれる道はある。
 
 国内でドライバーが景色をみれる道というと、紋別=サロマ湖=能取湖間(国道238号線)とか、富良野(国道237号線)、美瑛町から白金温泉パ−クヒルズへと至る道(白樺街道=道道966号線)などであり、絵のように美しく、北海道の道は、しばらく道内に住んでいた私の知るかぎりもっとも走りやすく快適である。
 
 だが英国の道は、北海道はいうにおよばず、ドイツ、フランス、スイスほかのヨーロッパ諸国と較べても格段に走りやすい。北米カナダ豪州のほうが道も景観も広く、直線的ですいているという意見もあるだろうけれど、道や景観はただ広ければいいというものでもないだろう。その理由は以前「COTSWOLDS」の「緑陰」に記したので繰り返さない。
 
 単に空気のおいしい場所、美しい景観ならほかにある。英国の道がどれほど快適か、一度でも英国のカントリーサイドを、とりわけイングランドA429をドライブした人ならわかるだろう。
Marlborough(モウルバラ)に至る緑豊かで変化に富む6月の田園風景。すれ違う車が一台でも来ればいいのにと思ったガラすきの道、わたる風のさわやかさ。走るのも止まるのも勿体ないようなカントリーサイド・ドライブの快感は他国で味わうことはできない。
 
 そしてまた、ヨークシャー・ムーア沿いのなだらかな丘陵を貫く、大きな曲線を描いた道、湖水地方の湖岸、南イングランドの海岸線を夢見心地にたゆたう道、奥まった村々に連なる昔の馬車道、北デヴォンからコーンウォールの原始の森へいざなう魔法の道。油が高いとか、老後の心配とかいった憂世のくさぐさを忘れさせてくれる道がそこにある。
そうした魅惑的な道のドライブになじんでいくと困ったことが起きてくる。それは国内でこれはと思う道が見当たらなくなるということである。北海道の一部を除き走りたい道がなくなってしまった。
 
 誤解を恐れずいえば、ドライブの快楽を国内にもとめることはもはや叶わなくなってきたので、快楽を得るために油高騰の折にわざわざ英国へ行くという贅沢、あるいは浪費。
が、私の立場からすれば、国内のドライブの激減したぶん彼の地でのドライブが増えるということであって、年間の油消費総量はむしろ減っているのである。
 
 エクスキューズはこれくらいにして、運転免許証と願望と勇気プラス時間と予算のある方、レンタカーで英国の道を体感されたし。車は右ハンドル、道は左側通行、標識も日本以上に数多く親切。親切というのは、左折または右折するのをうっかり忘れても、先々で右左折すれば目的地への道に容易に行ける。官民ともドライバーにやさしいのだ。ラウンド・アバウトという英国特有のおもしろい交差点も多い。
 
 快楽には目から入るもの、耳から入るもの、鼻や口から入るもの、身体の別部位から入るもの、もしくは身体全体で感じるものがあって、どこから入るものでも快楽に相違ないが、そのすべてを網羅しているのが英国のドライブにほかならない。
観光するためではなくドライブするために英国を旅する。英国と銘打ちながらイングランドしかふれていない。ウエールズおよびスコットランドをドライブする快楽についてはいずれまた。
 
                          (未完)

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