2002-03-15 Friday
バーデン・バーデン
 
 古代ローマ人は無類の温泉好きであったという。植民地や属領づくりは指揮官と兵士の仕事であり、それはそれで家族を養うために遂行したが、温泉づくりはそれとは別で、目の色変えて勤しんだようである。
先住民がすでに温泉を利用していたなら浴場の建設、整備だけでよい、が、そうでないときはまず源泉の発見に取り組まねばならない。さぞ時間がかかったろう。にもかかわらず、ローマ人がそれほどまでに温泉に執着したか。
 
 度重なる戦役で疲弊した肉体を癒すためとはとうてい思えないわけで、ほかに納得のいく理由があるはず。その理由が、イタリアに行くこと4回目でやっとわかった。
21世紀のイタリア野郎も、古代ローマ人もその道にかけてはご同類、要するに身体を清潔に保つということである。ではなにゆえ身体を清潔に保ちたかったか。読者諸氏におかれては、おおよそ想像に難くないと思われる。
むろん、中央ヨーロッパの気候のわるさ‥陽光ふりそそぐローマと異なり、うそ寒い日が多い‥ゆえ、せめて湯につかって暖を取るというのが温泉づくりの動機ではない。
 
 ローマ人は現在のドイツ、オーストリア、ハンガリーなどに侵攻したさいも源泉の発見と温泉づくりに血まなこになった。ケルト人にとってはいい迷惑である。
ローマ人が風呂嫌いであったなら、中欧に先住していたケルトがローマ人に追われて遥か彼方の北フランス・ブルターニュや、海を越えてブリテン(英国)、アイルランドまで落ちのびることはなかったろう。
 
 現存するローマ人の浴場跡に、「恋しくなったらおいで」と刻みこまれた碑文が発見されたのであったが、母国イタリアが恋しいのか、ほかに何か恋しいものがあったのか判然としない。落書きした側もおそらく、よくわからないように刻んだのであろう。
ローマ人が清潔好きなのは多くの人の推測通りで、特に指揮官と上級兵士はその傾向が強かったと思われる。つまりは、ニュショウとのお遊びに心を砕いたのであろう。湯上がりの匂いがどれほど効果があったか不明ではあるが。
 
 バーデン・バーデンのお湯はすばらしい。ドイツ語の温泉(バーデン)が二つ重なって、温泉好きの旅行者に期待を持たせる地名なのだから、すばらしくなければ詐欺である。かの地の湯は透明感が際だち、日本の温泉なら大分・湯布院、島根・玉造の湯質といえばよいだろうか。バーデン・バーデンは町自体はこぢんまりしているが、そこがかえって温泉情緒を楽しめるという按配だ。
ブランド店も数店軒を並べている。ブランド店以上に洒落た店もある。うまい料理を食べさせる四川料理、西洋料理レストランもある。私たち夫婦は4日間滞在したが、一週間いても退屈しなかったろう。

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